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衣川次郎「片蔭を出るやわが影取り戻す」(『葱の青』)・・

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 衣川次郎第5句集『葱の青』(東京四季出版)、その「あとがき」に、 (前略) 加えて書き残すならば、「青岬」創刊直前に妻を亡くし、コロナ禍の中で一人息子を失った。それらのことが、私を一層、生死に触れさせている。二人の足跡を「生きてきた証」として残し、記憶していくことが、生者としての責務とも考えるようになった。  句の底にいのち (・・・) や死 (・) が、流れているのは、そのためである。「生死」を根底に置く句集というのも、一つのカタチであろうかと思う。  「生きている証」を詠む「俳句は庶民詩」が「青岬」の指針である。  とある。集名に因む句は、    こころもち余白埋めたり葱の青        次郎 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。    どの辞書も過去を詰め込み秋灯し   じやんけんのグーだけ出す子春夕焼   流されし分を逆らふあめんぼう   累々と波の手が出て魂迎えへ   屈みたる母しか知らず草の花   重ね着をするたび旅に老いゆけり   水らしく水固まりて寒四郎   われに指紋牛に鼻紋草青む   花の夢蝶なり蝶の夢は花   かたつむり睦むデブリのどろどろに   ががんぼの去りたるあともゐるやうな   妻のゐる天くすぐりて遠花火   レノン忌といふより開戦日が来るぞ   ふるさとを妻にもらひし星月夜   衣川次郎(ころもがわ・じろう) 1946年、東京生まれ           撮影・中西ひろ美「夏野菜嵐の中を到来す」↑

大井恒行「秋、共生共在(きょうせいきょうざい)すべての武器を楽器にしょ!」(「俳句人」8月号より)・・

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 「俳句人」8月号(新俳句人連盟)、特集は「平和特集/被爆・戦後八〇年と俳句」。寄稿者各人が5句とエッセイ+「私の口誦する反戦・反核俳句5句」を寄稿。以下にいくつか句とエッセイの部分を紹介したい。    夏の月死者に遅れて上りけり             石 寒太    (前略) 核抑止力下の平和論は、ロシアのプーチンによって否定、さらにウクライナ戦争、イスラエルとハマスの軍事衝突。  戦争と平和は、今、新たな形での問い直しがはじまっている。  私たちはそんな新しい時代に立ち合っている。その節目に当たって、自覚をもって俳句をつくらなければならないだろう。   弾丸は蜜蜂となれ蜜もたせ              角谷昌子     (前略) 大戦後八十年の現在、世界中から日々戦報が届く。唯一の被爆国である日本は、さらに強く核廃絶と非戦を訴えねばならないと思う。      イスラエルイランアメリカここは旱          小林貴子    (前略) 私もくよくよ悩む性格なので、死後に妄執は残ると思う。   もし今世界が亡んだら、私の大切な輝くものたちが失われる。「平和特集」の貴重な『俳句人』八月号も出ないままになってしまう。それはいかにも残念だ。私は妄執を総動員し、自力で『俳句人』を出すだろう。地球という星で俳句という文芸に携わっていたという証のために。    生きおれば明日ある生きよ戦火の子          飯田史朗    (前略) 日本においても中国の軍事力強化に対抗し、軍事費を増大させ、更に台湾有事を想定し、沖縄県民の九州地方や、中国地方への避難訓練の計画まで立て、今にも戦争が始まるような雰囲気を作り、軍事費増強を反対できない雰囲気を作っている。これは極めて危険だと思う。戦争を放棄した憲法を擁している日本が戦争に加わることは絶対反対だ。それが戦後の新しい教育を受けた者の役割だと思っている。   風葬も鳥葬もある兵の墓               粥川青猿    (前略) 町内の仙美里地区には広大な軍馬補充部があった。ここには1932年ロスアンゼルスオリンピックで「バロン西」と呼ばれた西竹一が、かつて勤務していたことがある。戦地に送られた軍馬は全国で70万頭といわれているが還ってきた馬は一頭もいない。 (中略)  硫黄島で戦車隊長を命じられた西竹一は、終戦の...