魚住陽子「冥界の戸の透き通るまで月鈴子」(『魚住陽子詩文集 草の種族』より)・・

 

魚住陽子詩文集『草の種族』(椿編集室)、挿画・イラストは加藤閑。その帯には、


 はじめに詩がありました。

 魚住陽子が小説に先んじて発表した初期の「詩」と「詩的散文」を網羅。

 併せて個人誌『花眼』掲載の俳句全編と掌編小説(『五月の迷子』所収)の合間に書かれた

 未発表詩編を収録する。


 とあり、表4帯には、


 あお向けになったまま音楽に轢かれて死んでゆく

 短い祈りもなく 苦悶に見開かれたままの目を閉じてくれる指もない

 こんなにも静かで覆りにくい絶望があることを

 人はいつ知ってしまうものなのか。

       ―-「音楽」(『詩(二)』より)


 とあった。また、編者の加藤閑の「あとがき」には、


 小説家の表現活動の出発点が詩であったという例はすくなくない。むしろ詩に興味を抱かずに小説を書いたというケースの方がすくないのではあるまいか。魚住陽子の場合も、一九七六年から八一年にかけて、『味蕾』『艸』『クレオメ』といった同人誌に詩を発表していた。(中略)

 魚住の死後刊行された著作は六冊ある。遺稿集として位置付けられる『夢の家』をはじめとする五冊の小説集(いずれも駒草出版刊)と、句集『透きとほるわたし』(深夜叢書社刊)である。これらの諸作は、雑誌、個人誌等に発表されたもの、もしくは魚住が発表の明確な意志を持っていたと推測されるもののほぼすべてを網羅している。それの対し本書『草の種族』は既発表とはいえども若い時代の同人誌への掲載で、広範な読者を想定した作品とは言い難いものが多い。(中略)

 なお本書掲載の俳句作品については、既刊句集『透きとほるわたし』(鳥居真里子編、深夜叢書社二〇二二年刊)に約3分の1が掲載されているが、個人誌『花眼』発表の全容を表すために敢えて重複を承知で掲載したことをお断りしておく。


 とあった。以下に詩編「風」の冒頭部分と最終行を挙げておきたい。


     風

  風が吹くととても寂しい

  風が吹くと 死者を思うから

  過ぎ去って行くものの道が見えるから

  風は私に告げていく

  忘れたきり 思い出せないものは いっそう甘美だと

    (中略)

  恋に過ぎ去ってずいぶん月日は流れ

  あなたの声も忘れて過ごしているのに

  すべての詩の中にあなたがいて

  化石の中で死んでしまった蝶のように私はそれを取り出せないでいる


 魚住陽子(うおずみ・ようこ) 1951年~2021年8月、埼玉県生まれ。

 

  撮影・芽夢野うのき「蝉の穴そこにもそこは神生れし大地」↑

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