杉山久子「澄む水にもはや映らぬ人となり」(『栞』)・・
杉山久子第4句集『栞』(朔出版)、昨日のブログ、黒田杏子つながりで杉山久子句集『栞』。その「あとがき」に中に、 時々「俳句信条」なるものを求められることがあるが、言葉に窮する。特に信条のようなものもなく、過ぎてゆく日常に栞をはさむように句を作っているのかもしれないと、少し前から感じるようになった。そんな心持から、この句集を「栞」と名付けてみた。 (中略) この句集の初校ゲラと同時に届いたのは、師である黒田杏子先生の訃報。あまりに突然のことで、途方に暮れた。 先生の寝顔がそばに朴の花 句集の後ろの方に入れたこの句は時間的にいうと約三十年前の作。先生の他界を予見していたわけでは全くないが、なぜかこの句を入れたいと思った。 「藍生」もロングラン吟行「西国三十三ヶ所観音霊場吟行」に時々参加していた。これは二十八番札所成相寺での吟行の時のこと。前泊するために乗った特急の指定席でたまたま先生と隣り合わせになった。 (中略) 四人で向かい合わせにして喋った後、ふっと眠りに入っていかれた先生。先生が凭れる車窓を夕立が通り過ぎ、夏の日差しが通り過ぎた。 とあった。本集中の栞の句は、 三日月を栞としたるこの世かな 冬立つと栞紐付き文庫本 ともあれ、愚生好みに偏するが、以下に、幾つかの句を挙げておきたい。 冬星につなぎとめたき小舟あり 久子 しやぼん玉息もろともにかがやくよ 蝌蚪散るやツァラトゥストラかく舌を噛み 傷痕を見せられダリアいよよダリア 猫カフェにさはるなの猫春寒し 冬虹や言葉とらへぬ父の耳 かけがへのない日水雲食べてゐる 亀鳴くや死の話のち湯の話 空蟬をかかげしままの爪に泥 てふてふのてふのかさなりつつのぼる さて次は何に取り付く葛かづら 亀鳴くや三千年の禁固刑 白きもの蟻にはこばれつつもがく 囀にするどき舌の記憶あり 花びらに一脚かけて水馬 杉山久子(すぎやま・ひさこ) 1966年、山口県長門市生まれ。 撮影・芽夢野うのき「秋の草姉やら兄やら歌ってる」↑