山川桂子「静脈の海透きとほる今朝の秋」(第20回「きすげ句会」)・・



  本日、8月24日(木)は、第20回「きすげ句会」(於:府中市生涯学習センター)だった。兼題は「秋」を含む、3句持参。以下に1人一句を挙げておこう。


  ほろ酔ひの標は角の金木犀          高野芳一

  ラバウルの父の悲のいろ石榴割れ       濱 筆治

  膝裏の直ぐなる少女夏・銀座         山川桂子

  蟬の穴覗けば砂漠ラクダ見ゆ        久保田和代

  背後から目には見えねど秋の風        井上芳子

  途中下車夏水仙(なつずいせん)の出会いかな 杦森松一

  秋光を孕(はら)める堅き雲白し       井上治男

  お天気雨綿菓子いっぱい浮かんでる     大庭久美子

  電線にインコ石榴のクェッション       寺地千穂

  新涼や連れだちており瓜茄子         清水正之

  にっぽんの大きななやみ秋の風        大井恒行


 次回は、9月21日(木)、於:府中市中央文化センター、兼題は「茸」。



★閑話休題・・小野小町「秋の夜も名のみなりけり逢ふといへばことぞともなく明けぬるものを」(『小説小野小町 百夜(ももよ)』より)・・


 髙樹のぶ子『小説小野小町 百夜(ももよ)』(日本経済出版)、帯の惹句に、


 花の色はうつろいても、和歌の言(こと)の葉(は)は色褪せぬ/髙樹のぶ子

 千年の時を経ても語り継がれる「小町」の名。実作と伝わる和歌を拠り所に謎多き生涯を小説に紡ぎ、この女性歌人を数多の小町伝説から解き放つ。「百夜通い」とはたして――平安女流文学の原点がここにある


 とある。また、著者「あとがき」には、


 (前略)けれど小町の実像は、「あはれなるようにて、つよからず」ではなく「あはれなるようにて、真(まこと)はつよい」のではないでしょうか。

 小町の歌から「哀れ」と「美」を見出すことは男性にも可能ですが、もうひとつ彼女の歌から「つよさ」を感じとるには、女性の方が得意な気がします。

 もちろん男性にも「小町のつよさ」は伝わりますが、その場合の「つよさ」とは男に対して気丈であり、鼻っ柱がつよく、自我を貫く姿の「つよさ」であり、小町の歌には媚びへつらいがないので、自らの感性に正直なところなど、この時代の女性としては生意気に見えるのかも知れません。(中略)

 前作『小説伊勢物語 業平』のときにも、千年のあいだに面白おかしく、ときに賎しい羨望を込めて貼られた「女たらし」のレッテルを、どうにかして剥ぎ取りたいと思いましたが、小町には同じ女性として、さらに強くその衝動を覚えました。

 小町のイメージを修復し、名誉回復をなしとげ、その時代の最も選れた評者であった紀貫之の賛辞をふたたび取り戻したい、との願いが、本作を書く大きなモチベーションとなりました。(中略)

 平安という時代の不自由さもまた、小町とともに実感していただければ嬉しいです。


とあった。

 思ひつつ寝(ね)ればや人の見えうらむ夢と知りせば覚めざらましを  小町

 あはれてふ言(こと)こそうたて世の中をおもひはなれぬほだしなりけれ

 花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに


 髙樹のぶ子(たかぎ・のぶこ) 1946年、山口県生まれ。



        芽夢野うのき「川音と密かにあいよる石榴の実」↑

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