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中本真人「虫干の佐渡に残れる流人の書」(『越佐』)・・

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 中本真人第2句集『越佐』(ふらんす堂)、その「あとがき」に、   本書は、第一句集『庭燎』に続く私の第二句集である。東北地方太平洋沖地震の平成二十三年から、長女が誕生した平成三十年までの八年間の作品を収めた。それ以降は、元号が平成から令和に改まり、現在に至る育児中心の生活となることから、次の機会に譲ることにした。  越後国と佐渡国を合わせた呼称である「越佐 (えつさ) という書名には、この地に対する挨拶と感謝の意を込めている。越後・佐渡の豊かなる自然、人々のあたたかなつながり、厳しく長い冬、そして我が子の誕生――すべてが俳句の源となっている。丁寧に対象をみつめることで、花鳥諷詠、客観写生という俳句の詩的可能性を、少しでも広げていきたい。   とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。    風邪気味の夢に嫌ひな奴に会ふ         真人    金泥の寝釈迦の金の箱枕   かんばせに老若のなき菊人形   不発弾処理の無人の五月闇   知事映るテレビ会議も震災忌   新潟のひねもす晴れぬ冬来たる   遅れ来てメーデーの旗持たさるる   すぐ水となる除湿剤梅雨に入る   売り言葉買い言葉とも息白く   日差し濃きまま吹雪となり始む   学生の自殺一件冬休   落第の子に退学の判を押す   春眠の誤答に○をしてしまふ      中本真人(なかもと・まさと) 1981年、奈良県北葛城郡(現・葛城市)生まれ。 ★閑話休題・・山内将史「蜩や皿にのる血の美しき」(「山猫便り・2026年8月11日」)・・  「山猫便り」は、山内将史の葉書通信。それには、     影法師連れてあつまる月の海    吉田汀史『一切』  平凡な風景なのに。擬人法と俳句の短さゆえの省略によって、不思議な幻想のように見えてくる。影法師は生きているような、「あつまる」のは人ではなく「月の海」はこの世ではないような、    母たちに簡単服の夏ありし      髙橋睦郎『十年』  髙橋睦郎にとって季語はエロスなのだろう。一年ごとに彼方からやってきて、ひととき心をそそのかし、また遠くへ去ってゆく。   とあった。    撮影・芽夢野うのき「みはるかすすすきかるかやみはるかす」↑

福田鬼晶「墓標みつしりハ月といふ荒野」(『クマムシ』)・・

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 福田鬼晶第二句集『クマムシ』(ふらんす堂)、その「無常迅速——あとがきに代えて」には、    無常迅速小津安二郎墓所冬日  ——小津さんの作品が好きで、殆どを観たと思う。  銀座の小料理屋やバーがよく出てきた。その銀座にあった父の行きつけの「卯波」は跡形もなく、父に紹介され二言三言交わした真砂女もとうに亡くなった。「おばはん逝ったか」と呟いた父も既に亡い。母も数年前に逝った。  故郷、防府も記憶の中では遥かに遠い。あの明るくちょっと空虚な瀬戸内の日差しは彼の世のことのようだ。まさに無常迅速。  第一句集を縁あって八年前に纏めさせてもらったが、その後の日々も飛ぶように過ぎた。その中で心の中に泡 (あぶく) のように浮いてきた言葉を、何とか紡いできた。その泡が瞬時でも「詩」となって立ち現れているようにと念じて。  とあった。集名に因む句は、    クマムシを飼ふゆめ春の曙に       鬼晶  であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。    淡雪のうしろの闇を訪ねむか     悼 つげ義春    陽炎の中で石売る男かな    うりずんの潮しづもる大和の忌   吊虻の虚空の昼を騒つかす   わたくしはわたくしに棲み青葉騒   わたくしにわたくしをらず夏怒濤   黒旗忌夜のいわし雲全天に            大杉栄・伊藤野枝虐殺   桃の世をマントの中也とびまはる   虫の闇絶ゆることなき難民史   利行忌の秋の時雨となりにけり               画家・長谷川利行   けふの日をけふ照り返し石蕗の花   その日より影絵の国や開戦日   鬼やらひやらはで鬼と暮らむか   福田鬼晶(ふくだ・きしょう) 1950年、山口県防府市生まれ。 ★閑話休題・・夏石番矢「人々あっさり騙されあっさり死んでゆく」(「祈り展」より)・・                  夏石番矢氏の色紙↑   先日、「祈り展」(於:ーSTAGEー1)の最終日、8月15日(土)、ぎりぎりに駆け込んだ。展示参加者は、  穐山昭二・石井ルイ・梅川紀美子・エディ上枝・尾川和・木島隆夫・黒澤淳一・澤田重人・鹿田五十鈴・相馬亮・田島靖浩・田中晴久・種村国夫・夏石番矢・Noliko・和叶。  であるが、愚生の知人は夏石番矢のみ。以下に彼の色紙の句を挙げておこう。  ...

今村俊三「地につばさ与ふるごとく水打てり」(「jaja 「bibi」第1号より)・・

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 「jaja bibi(ジャジャ ビビ)」第一号(短詩型ユニット jaja bibi)、挟み込まれた便りに、   このたび私たちは、久しぶりに活動の拠点をつくりました。jaja bibi。  聞き慣れない音かもしれませんが、2つの母音を入れ替えると、誰でも知っている音になります。  長い間、ことばによる表現を実践してきました。それは森のなかの佇みにいるような時間でした。いま私たちにできることは、ことばの響きに宿る意味を伝えること、いまを生きている人たちと、響きの中でことばを交わしたいと思います。  ユニット。それは、形式でも制度でもなく、いわば関係のかたち。年2回というゆったりとしたペースで、多くの方々と時間、空間を共有しながら、短詩型のありようを考えていきたい、そんな思いをもって、小さな雑誌を創刊します。  とあった。エッセイに、吉野裕之「臍(ほぞ)の緒のごと――今村俊三句集『立歩』を読む」、髙橋みずほ「合図する言葉1——浜田到作品『薔薇失神』」。ともあれ、本誌より、いくつかの作品をあげておこう。   せかいにはたくさんのひと、たくさんのこと 雨が降ったら消えてしまうが   裕之    Iさんが  死ぬなんて思わなかったからぼくはそのままそこを離れていった  いろくずを食うかと聞かれ迷いたり時間がないと応えようとす  人の歩幅なんてわからない朝のつめたき透明道路              みずほ  風にふかれたたたずみに鷲 やさしき風の羽となるまで  てのひらににぎる風をひらけば藍の庭のなかなるひとり  茎立や答へみつからないままに         裕之  島人といふ響きから万緑す   蠅叩きこの使ひ方正しいか ★閑話休題・・津髙里永子「母のこゑなき白濁の金魚玉」(「~ちょっと立ちどまって~2026.7~」)・・  「~ちょっと立ちどまって~」は、津髙里永子と森澤程の二人の葉書通信。   蒲の穂や無垢の柱として火照る      森澤 程     撮影・芽夢野うのき「人の死は四年ひまわりは淋しき花か」↑

季川詩音「歴史書に書かれぬ父の戦利品」(「Aii(アリ)」第2号より)・・

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 「Ali(アリ)」第2号(Ali)、「編集後記」に、   「Ali(アリ)」はイタリア語で「翼」の意味。そんな小さな翼の二号をお届けします。  創刊号の編集後記には「飛翔」という言葉がありました。あれから一年。こうして四人で二号をお届けできることを、まずは素直に嬉しく思っています。この一年は思いがけない出逢いに満ちた時期でした。創刊号が「飛翔」なら二号は「出逢い」かもしれません。  今号では北大俳句会「えぞりす」有志による機関誌「旗手」を読み、座談会を行いました。 (中略) 若い世代の俳句への情熱に触れ、刺激を受けたことも今号の大きな収穫でした。  また、この一年のご報告としてメンバーである坂本眞紅が「第26回中北海道現代俳句賞」を受賞するという嬉しい知らせもありました。今号には受賞作『足りている』も収録いたしました。合わせてお楽しみいただければ幸いです。  とあった。「Ali」は、その創刊号に、   同人誌「ペガサス」で出会った北海道在住の四名が、新たな時空へ自らの俳句を羽搏かせようと結成したユニットです。 とある。ともあれ、本誌本号と同送された創刊号から、いくつかの句を挙げておこう。    優しさの定義分解したら秋        木下小町    冬の月竜宮城は何処ですか         〃    しりとりのけりつけにけり夏みかん    坂本眞紅    冷蔵庫上段奥のスラム街          〃    奥深く吐くわたくしの母語は雪     瀬戸優理子    逆転を狙える手札蛇苺           〃    片虹や胎内に子の戻せたら        高畠葉子    満月や本解にない母の声          〃 ★閑話休題・・和田信行「松の傷撫でる皺の手敗戦日」(「立川こぶし句会」)・・  8月14日(金)は、立川こぶし句会(於:立川市女性総合センター アイム)だった。以下に一人一句を挙げておこう。    語り部の被曝アオギリ松葉杖         川村恵子    「ちゃん」と「くん」飛び交い夏のクラス会   三橋米子    慰霊の日あれは私と震える少女 (こ)     和田信行    アルプスを抉じあくリニア通させぬ      井澤勝代    八十一年朝から騒ぐ蝉の声          高橋桂子    五色沼泳いだ記憶雲の峰           伊藤康次...

堺谷真人「夏茶碗宇宙はいつも右回り」(「つぐみ」No.230/8月号)・・

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 「つぐみ」No.230・8月号(編集発行 つはこ江津)、本号の「俳句交流」は、堺谷真人「現在地」、その小文には、  短編小説を書いた。「算術の少年」と題し、去る7月六日、関西現代俳句協会のホームページに公開。小林恭二氏の小説『三鬼』出版に因んで特集を組むに当たり、シンガポール時代の三鬼をモデルにした拙作を載せて頂いたのだ。平素、俳句といふ極致の世界に跼蹐呻吟してゐる反動ででもあらうか、まるで籠から放たれた非力な小鳥のやうに私の筆はふらふらと南洋の陽射しの中を飛び回った。作中には明記してゐないが、舞台は昭和三年(一九二八)。時代の空気を感じ乍ら書きたかったので、表記はすべて旧かなで通した。迷子の小鳥はまだ帰つて来ない。今は三鬼と同時代の祖父の青年期を小説に書いてゐる。  とあった。他に注目したのは、同じ「豈」同人の打田峨者ん「『つぐみ』鑑賞(6月号より)」と伍宇「——突然 降ッテキタ 未知ヘノ 彷徨/加藤閑句集『四季』」、その二例を以下に、 山独活に似た舟に寝て死に向かふ  “ウドの大木“なんて 言わないで/やわらかくて あったかいのよ  そのふねにのり うつらうつらゆめ ゆらぎ      (安楽椅子/一瞬/解脱/恍惚/空) 伍宇    末枯れのオルガン今は野にありし  多くの繊細孤児が現出した日本/立派に成長し 世界の 先頭にたった    あの苦しみ 哀しみ 怒りを 発条(バネ)にして      (手風琴=父なし児=風ノススキ原)    つはこ江津「 追悼 森田緑郎さん/「ありがとうございました」 )も印象に残った。本年4月17日死去、享年93だったという。愚生が初めて森田緑郎にお会いしたのは、30年ほど前だろうか、渋谷の鬼婆こと多賀芳子宅だった。ご冥福を祈る。  ともあれ、本誌本号より、いくつかの句を以下に挙げておこう。    一握の十薬に日の燦々と          堺谷真人    風の有無にさてもさてもえのころ草     天空海士   万緑や影だけ残す人の形         夏目るんり    青鬼灯シュプレヒコール横切る      ののいさむ    大縄跳び息を揃えて夏に入る        蓮沼明子    桑の実食べたふふっ思い出も        平田 薫   さそり座にオクラ並べる星まつり      宮本英司   梅雨明けに花を植えよう妻の声       ...

有賀眞澄「人魚魚人心中銀河さかしまに」(『虹のはふり』)・・・

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 有賀眞澄『虹のはふり』(虹蜺舎)、「後書」には、   我が定型文芸の目覚めは、秘技的志向の垂直旅行から単車の旅へと水平的可能性に踏み出す放下の自在にあった。ヰタ・マキニカリスの発動は雨風や虹をかむかふ羇旅の作に連結するのだが、旅を素材にするのではなく度に拠ってする時空の超脱による。切符を切らずに風を切るのだ。そして漂泊は漂流物との親和力と繋がり、タブローもアッサンブラージュへと転位して行くのだが、物語は全て斜めに切り   裂かれる。また断片は流れることに拠って生き返り、またよみがへる。切っても切られても墨流しの中からたち顕はれる。うつろで寄しきものに出会ふため、此処までを来てまた此処からを行く。自分が引き摺り出してきたものとの戯れを焙り出すと、たとへばブラザーズ・クエイの地下世界の光の重力に晒される。新作砂時計サナトリウム「(ブルーノシュルツ)へのオマージュ句一句を集中に挿し入れ、かつてガニメデ誌(二〇〇〇年・十八号)のクエイに献じた五十句連作の道行に我が月下跛行の旅を繋げてみむとす。  とあった。句画集とでもいえばよいか、本集より、いささかの句を以下に、愚生の恣意ながら挙げておきたい。    枯れ山の土の匂ひになりにゆく        眞澄    雪に吊られてをみなは水に戻れない   恋猫やゆ文字は文字のよぼろくぼ   はんげしやう劇中劇の紙吹雪   そこもとのそこをはらへばほうせんくわ   ひしひしと悲歌はひめもす身はミモザ   ひるがほや眼をつむらずにする手淫      有賀眞澄(あるが・ますみ) 1950年、長野県諏訪市生まれ。    ★・・H to H  from here to hirata 2026年9月14日(月)~9月19日(土)/月~金・12:00~19:00/土・12:00~17:00(於:K’s Gallery RoomA/ B)・・   有賀眞澄・五十嵐久美子・池田学・石原智是・岡本たかし・小山雅子・佐々木浩樹・醍醐イサム・竹内敏江・辻忍・露口実・西牧喜文・森美千代・柳田祐希・吉川千里・依田元明  K’s Gallery  中央区日本橋久松町4-6 杉山ビル4F 03-5159-0809          撮影・芽夢野うのき「ひぐらしや痛みは孤独だと気づく」↑

山下知津子「まつさきに火とならむ髪洗ひをり」(『一隅』)・・

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  山下知津子第三句集『一隅』(ふらんす堂)、「あとがき」には、  『一隅』は『文七』『髪膚』につぐ私の第三句集です。  二〇〇五年以降の四〇四句を収めたこの句集を出すことができたのは、ひとえに私の背中を強く押してくれた「麟」の仲間のおかげです。(中略)  「麟」の仲間、そしてふらんす堂の皆様に深く感謝申し上げます。  とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。   鶏頭に佇ちぬ鶏頭よりかろく        知津子     八月四日 青山葬儀所 小田実氏告別式    柩見送りデモ動き出す蟬しぐれ   刑務所刊合同句集寒昴   十万年後のきれいな空気黄水仙       染谷佳之子さん『橋懸り』上梓   臘 梅にうるみふくらむ天地かな      母逝く   明日ありと眠りて覚めず白障子   福は内内なる鬼を飼殺し      駒木根淳子さん星野立子賞受賞   差し交はす好文木の紅と白   澄む水の濁りひとすぢ太りゆく   ダリア立つあなたにはまだ剪れざると   青蜥蜴イエスはいつも震へゐし   アフガンの銀河の下の蛇籠かな   冬の日やもう動かざる猫を拭く   開戦終戦男が決めて冴返る   小暗さの沖や冬虹散りしきる      悼 黒田杏子先生     〈花に紛れ闇に紛れ我に逢はむ 黒田杏子〉ありて   花に紛れ己に逢ひにゆかれけり     伊東柱 (ユドンジュ) の忌や北天に梅真白   白といふ重き椿のありにけり   裸木に裸木の影差しゐたる   戦後百年ありや白花曼珠沙華     山下知津子(やました・ちづこ) 1950年、神奈川県生まれ。   撮影・鈴木純一「上海も広東と南京から東京にヨコハマの薔薇を召しませ」↑         8 月 13 日   上原げんと   没   ( 1914 から 1965 )作曲家