対中いずみ「話したく蓮の蕾は握りたく」(『蘆花』)・・
対中いずみ第4句集『蘆花』(ふらんす堂)、著者「あとがき」には、
(前略)琵琶湖は大きな澄んだ真水です。蘆はその水質浄化を担っています。春先、蘆の芽を尋ねて湖岸を巡ります。 靴先が濡れるほど渚に踏み入り、小さな芽を見つけると「ああ、今年も会えた」と嬉しくなります。蘆の成長ははやく、すぐに瑞々しい青蘆になり、やがて仲秋には穂がぱらりと開きます。蘆の花です。よく見ると、一本一本の穂は緑に銀が混じったような色で、日を返してきらきらしています。ところどころに赤い穂が混じっています。これもやがて枯れ、折れても折れず、蕭条とした冬景色となります。蘆は小さな芽のときと花ひらくときに、ほんの少し赤い色を見せてくれます。蘆という植物はどうやらその隋に赤を秘めているようです。詩情とはそのようなものかもしれません。
とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
柊を挿して帆柱鳴りゐたり いずみ
ぶらんこの鎖ごと抱きしめられて
悼 島田刀根夫さん
長老に青葉濃くなりまさりける
流木のつづきのやうに半裂は
母と最後の面会
くちびるにデラウェア吸ひこまれる
ひとつきはしぐれの虹のやうにゐる
雨ふれば鳥とべば紫蘇赤くなり
ゆふぐれのありしともなきゆきぼたる
蛇穴を出でて泪の溜まりたる
谿川の大方は影葛の花
桔梗の花がしをれて砂の色
海山に酒を垂らさむ裕明忌
花種を蒔く黒いのも白いのも
松暗し雪のあとなる浮御堂
対中いずみ(たいなか・いずみ) 1956年、大阪市生まれ。
撮影・鈴木純一「梅雨明けや見えぬ心は型にはめ」↑
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