研生英午「ほむらたつ山河の空や秋の暮」(「鹿首」第19号)・・


 詩・歌・句・美の共同誌「鹿首」第19号(鹿首発行所)、その「表紙の言葉」に、


 千葉の九十九里の片貝海岸には、海辺の外側に野原が広がっている。そこには錆びついた大きな鉄板が放置され、橋のように連なっている。その橋を渡る人はいない。誰にも気づかれずに幾歳月もの間、眠り続けている。

 誰も渡ったことがことがないこの橋を、いつか渡りたいと思った。

 役に立たない橋だが、その先には荒れ果てた曠野があるのではなく、未踏の地平が広がっている。


 とあった。特集は「息」。執筆陣は、天草季紅「言葉と自然ー音の心をさかのぼる」、小林弘明「舞台と魅惑」、早坂健伸「山水的陽水論2」、中村茜「自閉症と知的障害と言葉と生活についての一考察/ー余白と意味」、室井公美子「東北見聞録3」。

 他に、研生英午の連載評論「イマージュ・浮遊する眼前の行方20 河東碧梧桐の俳句」など。ともあれ、以下に、本誌本号中より、いくつかの歌と句を挙げておこう。


  皇紀尽 人間宣言するAI          内田正美

  モヂリア二不眠の眼梅雨の月        奥原蘇丹

  隧道や一山ごとに春や春           翁 譲

  鉄馬かり春宵の路の黒き河         鈴木淳史

  水面の空沈みゆく岩の伽藍          風山人

  澱みある世界を濯ぎし源内のなづきの皺の深さを計れ        川田 茂

  にてゐない鬼の子なればにくらしい 打ちてはつよく抱きしめて言ふ 天草季紅

  沖縄胡座は米軍の街今なほBARの二階はちよいの間         内藤隆子

  ないよりはだいぶいい虫コナーズぶらさげているヒロシマの鐘    山下一路

  なにひとつ変わっていない別世界あなたにもチェルシーあげたい   穂村 弘

  土さはる驟雨ひととき花衣          研生英午



     撮影・中西ひろ美「うつし世の朝涼に誘われて出て」↑

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