坂本宮尾「日盛りの草の奢りをまぶしめる」(『ゆるやかな距離』)・・
坂本宮尾第4句集『ゆるやかな距離』(角川書店)、著者「あとがき」には、
句集『ゆるやかな距離』は、『天動説』『木馬の螺子』『別の朝』につづく私の第四句集です。二〇一六年夏から二〇二四年夏まで、七十代に詠んだ三五四句を収めました。(中略)
長年、私は研究者の仕事と併行して俳句を詠んでまいりました。旅行といえば仕事の資料探し、取材が主目的の一人旅で、俳句を詠むための旅は思うようにできませんでした。退職後、俳句を中心とした暮らしを始めて何より嬉しかったのは、憧れていた場所をゆっくり訪ね、各地の行事に句友たちと参加する機会に恵まれたことです。(中略)
句集名の『ゆるやかな距離』は、長い距離をゆったりしたペースで走るというマラソンなどの練習法LSD(Long Slow Distance)にちなむものです。主に初心者向けのトレーニングのようですが、息長く、自分なりの俳句の歩みをつづけていけたらという願いを込めました。
とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておきたい。
沈みたるものも影もつ冬の水 宮尾
季刊雑誌「パピルス」創刊
新涼や真白き紙に何書かむ
藻の花のまはりの水の窪みたる
人に書に天寿あるなり草螢
霜の声本を育てるてふことも
越中の五色めでたき氷餅
石割つて聴く石のこゑ日の盛
風入れや母の細かき縫目解く
とある窓兎と野鴨吊されて
有馬朗人先生急逝
師の船がゆく冬麗の喜望峰
滝の上なほ見えぬ滝響きけり
長姉逝く
今朝ひらく白玉椿枕花
急逝の黒田杏子先生への追慕、限りなし
悠々と大白鳥の北帰行
『杉田久女全句集』刊行
久女への終りなき旅菊枕
多羅葉に文運と書き冬ぬくし
坂本宮尾(さかもと・みやお) 1945年、中国・大連生まれ。
撮影・中西ひろ美「ガンバっているなと思う夏の朝」↑
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