宮崎斗士「脱走兵 夜はアザラシの痣らしい」(「六花」VOL.10 より)・・
「六花」VOL.10(六花書林)、表紙に特集記事のタイトル「詩歌について私が知っている二、三の事柄」とある。「六花書林創業二十周年へのメッセージ」には、久保田鶴子、栗木京子、黒岩剛仁、小池光、佐伯裕子、三枝昂之、酒井修一、高木佳子、富田睦子、藤原龍一郎が寄せている。他にも多くの執筆陣がいるが、俳人では大石雄鬼「人間の影」、連載記事に宮崎斗士「俳が流れる8/三十二年目の胴上げ」がある。そこに愚生に触れて書いてくれているので、少し長くなるが、それを以下に紹介したい。 今、私の手元にある一冊のアンソロジー『耀ー『俳句空間』新鋭作家集Ⅱ』。弘栄堂書店より一九九三年十二月二十五日発行。帯には「俳句の無限に腕を振り、俳句の言葉に世界を見る!『俳句空間』新鋭蘭に登場した作家たち16人のアンソロジー100句」とある。この十六人の中に私も含まれている。発行から三十二年が経ってしまった。 (中略) 特に強く心を揺さぶられたのは「新鋭作品欄」。「『俳句空間』では新鋭作品を募集します。小誌では十句を単位として、入選した場合、全句を掲載します。俳句形式に真摯に取り組む方、文学的野心を持っている方々は、ふるって御応募下さい」。この「文学的野心」が殺し文句だった。すぐに火がついた。初めて十句が掲載された時は、ぼっ!と全身炎上した。 (中略) そして、私以外の十五名の『燿』参加者。オオヒロノリコ、岡田秀則、五島高資、佐藤清美、袖岡華子、高山れおな、田辺恭臣、萩山栄一、平田栄一、前島篤志、正岡豊、松澤隆晴、水野真由美、守谷茂泰といった方々に加え、参加者中最年少、若き日(二十三歳!)の宇田川寛之氏がいた。 桟橋や冬の気配に手が届く 寛之 進化論唱ふる者さへ知らぬ闇 てのひらに虹の余韻をとどめたり (中略) 俳句作家としての大井さんに関して言えば、大井さんの第二句集『風の銀漢』(一九八五年発行)を初めて読んだ時の胸騒ぎのような感覚、感銘は今も忘れられない。。 たとえば風が、はじまる朝を烙印す 恒行 友よ明日は影を苦しむ夜の蜘蛛 耳のなかのどこか鳴りたる曇天よ とりわけ、 針は今夜かがやくことがあるだろうか 清水哲男氏による跋文「このしずまった破調の針の先端で、詩人はヤジロベェのように安定を求めて揺れているのだと信じたい」と共...