佐藤弓生「一瞬の百年 冬の稲妻(いなずま)がやがて虚空にもどりゆくまで」(『歌画集 花やゆうれい』)・・




  佐藤弓生短歌/町田尚子画 歌画集『花やゆうれい』(ほるぷ出版)、構成は第一章「花やゆうれい」、第二章「隙間の向こう」、第三章「かげにひげ」、第四章「ここは雪です」、第五章「夜と毛糸玉」、第六章「一瞬の百年」。

 本歌画集より、歌のみになるが、いくつかの歌を以下に挙げておこう。


 花と死と花でない死と分けながら いいえ、誰もがいずれゆうれい  弓生

 のみならずきっと銀河も越えてきた今夜の雲はつばめのかたち 

 どこにでも入ってゆける猫だから爪あとほどの夜の隙間へ

 透かし見る夏のひかりは砕かれて黒いリネンの隙間の向こう

 おくれ毛がうるさい夜は火星にも風吹く夜か いのち減る夜 

 パンジーのはなびらほどのあしあとの光って、消えて、―-やがて、あけがた

 吹けよ風 からだが涸(か)れてしまうまでかなしいことを泣いてしまえよ 

 しらほねのにおいがします春の午後あるじのいない明るい部屋は

 夕あかり汚れるままに 水を汲む この世からしか汲めない水を

 

 佐藤弓生(さとう・ゆみお) 1964年、石川県生まれ。

 町田尚子(まちだ・なおこ) 1968年、東京都生まれ。




★閑話休題・・武藤幹「同齢の幹に手を置く冬日和」(第74回「ことごと句会」)・・


 11月22日(土)は、第74回「ことごと句会」(於:ルノアール新宿3丁目店)だった。

兼題は「幹」。以下に一人一句を挙げておこう。


  大根の白喋り過ぎではないか         江良純雄

  夏果てる鏡の中の嘘ひとつ          武藤 幹

  王として去り行く際(きわ)のシンフォニー  渡辺信子

  日向ぼこゆるむゆんでを置き去りに     杉本青三郎

  霜月の 幹の法身(ほっしん) 百年樹    春風亭昇吉

  青い沼から生えている幹 幹 幹       金田一剛

  靴紐を結び直して秋麗            石原友夫

  深爪をして冬夜の幹をあたためる       照井三余

  逆らいたい風なら逆らう風見鶏        林ひとみ

  翼竜の形に冬の流れ雲            渡邉樹音

  侘助よ軍靴の音が聴こえぬか         村上直樹

  形見分けすべてあげたい秋彼岸        杦森松一

  橙に若干みだらな清純            宮澤順子

  網膜のよう枯れ羊歯の几帳面         大井恒行


           

  撮影・鈴木純一「山茶花は白きがゆゑと散りにけり」↑


コメント

このブログの人気の投稿

田中裕明「雪舟は多く残らず秋蛍」(『田中裕明の百句』より)・・

秦夕美「また雪の闇へくり出す言葉かな」(第4次「豈」通巻67号より)・・

渡辺信子「ランウェイのごとく歩けば春の土手」(第47回・切手×郵便切手「ことごと句会」)・・