大井恒行「木と石とあつめてわたし暗くいる」(『昭和俳句作品年表(戦後編Ⅱ/昭和46年~64年)』より)・・
『昭和俳句作品年表(戦後編Ⅱ/昭和46年~64年)』(現代俳句協会)、その帯の背には「戦後俳句作品年表完結!」とあり、表帯には、
円熟から新風へ/高度成長の余熱から平成前夜までの俳句を網羅‥‥堀田季何
(前略)『昭和俳句作品年表 戦前・戦中編」が完成したのは、平成二十六年(二〇一四)、『昭和俳句作品年表 戦後編Ⅱ』(昭和四十六年〈1971〉~昭和六十三年〈一九八八〉)と合わせて昭和全期に渡る主要な俳句を網羅した年表三部作がようやく完成したことになる。企画発足以来、実に十八年の長い歳月を要した。
とあり、また、中村和弘「おわりに」には、
(前略)今回の「戦後篇Ⅱ」をもって『昭和俳句作品年表』三部作の完結となるが、前二巻と比べるとこの度の「戦後編Ⅱ」は、最も難事業だったのではないかと思う。それはこの時代(昭和四十六年~昭和六十四年』に作品の評価があまり定まっていないことによる。この
時代の膨大な俳句作品を収集し、編纂員会全員で秀句を洗い出すようにして選ぶ。まさに気の遠くなるような作業である。選考委員各々の選句眼も異なり、それをどのように統一していくか。「戦後篇」の宮坂静生の「はじめに」にあるように「編纂委員はそれぞれ俳句観、選句眼を異にするため、選集委員の過半数が佳句として推したものは原則として収録し、過半数に満たないものでも強く推す句であれば吟味し採択を決定した」とある。おそらくこれ以上の妥当な方法はないであろう。(中略)
この『昭和俳句作品年表』を自由に読み活用していただきたい。
最後に『昭和俳句作品年表』の完成をみることなく亡くなられた村井和一氏、大畑等氏に哀悼の意を表すとともに、長年にわたり編集に携わってきた編集委員の皆様に心より感謝申し上げます。
とあった。本ブログでは、「豈」同人であった俳人を中心にして、本集に収録された句を挙げておきたい。
打ちのこす釘の頭や冬の空 白木 忠(昭和47年)
泳ぎ終へしわが脂浮く中の姉 大屋達治(昭和48年)
美術展はじめに唇を処刑せり 〃 ( 〃 )
酒ちかく鶴ゐる津軽明りかな 〃 ( 〃 )
男根担ぎ仏壇峠越えにけり 西川徹郎 ( 〃 )
致死量の月光兄の蒼全裸(あおはだか) 藤原月彦( 〃 )
憶良らの近江は山かせりなずな しょうり大( 〃 )
南浦和のダリヤを仮りのあはれとす 攝津幸彦( 〃 )
吊されて土用の葬の羽織透く 宮入 聖( 〃 )
匙なめて少年の日をくもらせる 大本義幸(昭和49年)
幾千代も散るは美し明日は三越 攝津幸彦( 〃 )
南国に死して御恩のみなみかぜ 〃 (〃 )
空港がしぐれていくさぶねとなる 白木 忠 (昭和50年)
芒野にガーゼのごとくわれ立てる 須藤 徹 (昭和51年)
木と石とあつめてわたし暗くいる 大井恒行 (昭和53年)
されど雨されど暗緑 竹に降る 〃 ( 〃 )
戦争が町の形をしはじめたり 中烏健二 ( 〃 )
牡丹見てそれからゴリラ見て帰る 鳴戸奈菜 ( 〃 )
目鼻なき大炎天の正午なり 〃 (〃 )
暗きより雪ふる京の水銀屋(みずがねや) 大井恒行(昭和54年)
廻廊を歩きつくして真葛原 藤原月彦( 〃 )
石の原緋の一脚の椅子もなし 〃 (昭和55年)
硝子器に風は充ちてよこの国に死なむ 大本義幸( 〃 )
八月の広島に入る。声を、冷やして、ね 〃 ( 〃 )
青天の蛇は縦に裂くべし車百合 仁平 勝( 〃 )
噴水とまりあらがねの鶴歩み出す 宮入 聖( 〃 )
発心の蛇は目の玉まで脱ぎぬ 山﨑十生 ( 〃 )
片足の皇軍ありし春の辻 仁平 勝 (昭和57年)
車座になって銀河をかなしめり 山﨑十生(昭和58年)
風のないときは乱れてゐる芒 〃 ( 〃 )
元日の開くと灯る冷蔵庫 池田澄子 (昭和59年)
一滴の天王山の夕立かな 大屋達治( 〃 )
階段を濡らして昼が来てゐたり 攝津幸彦( 〃 )
扇より風がゆくなり畝傍山 大屋達治(昭和60年)
国境を少しはみだし襤褸振る 須藤 徹( 〃 )
おとうとの吃音つづく遠花火 仁平 勝( 〃 )
目の上のたんこぶ大事心太 山﨑十生( 〃 )
黒船の黒の淋しさ靴にあり 攝津幸彦(昭和61年)
あをあをと水無月祓過ぎにけり 筑紫磐井( 〃 )
じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 池田澄子 (昭和62年)
まず口をあけて暑き日始まりぬ 〃 ( 〃)
玉虫の青まさりしを放生会 筑紫磐井 ( 〃 )
青年に春の鳥来て名告りけり 鳴戸奈菜 ( 〃 )
校葬のおとうと銀河が床下に 西川徹郎( 〃 )
少しずつピアノが腐爛春の家 〃 ( 〃 )
夕紅葉シャープな男ふと憎し 秦 夕美( 〃 )
国家よりワタクシ大事さくらんぼ 攝津幸彦(昭和63年)
金泥で書く波羅蜜の涼しさよ 筑紫磐井( 〃 )
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