曾根毅「花器という奈落に花の重さあり」(『十翼』)・・・
曾根毅第二句集『十翼』(東京四季出版)、著者「後記」には、 『十翼』は、『花修』(深夜叢書社、2015年)に次ぐ私の第二句集です。ニ〇一五年から二〇二五年までの十一年間の作品を収めました。編集は制作順になっていません。 (中略) 句集名は、孔子が著したとされる易経の解説書名を拝借しました。「五十にして以って易を学べば大過無かるべし」とは論語の言葉。偶然に四書五経に触れるなかで易経に出会いました。さらに易の延長線上で暦に触れ、歳時記に通じていることに興味を持ちました。芭蕉の「不易流行」も易にちなんだ言葉です。また、心理学者のユングがシンクロニティ(共時性)を提唱するきっかけになったのが易経であることを知り、客観的な表現が己を離れ得ないということに興味を持ちました。本当の自分は、自己を離れてもどうしようもなく残るもの。意識的に自己を抜きにして、例えば偶然目にした言葉や文献、写真なそを詠んでも、そこに通底している無意識のオリジナリティを大切にしています。 (中略) 俳句は本来、五七五の定型、そのリズムであると思います。季語や切れ、取り合わせ、言葉や意味、内容の面白さといった読ませどころをどれだけ付加してみても、それらは表現上の技術、何でもないただの五七五で表された言葉が、技術を超えて、または抜きにして主張するとき、俳句そのものが機能しているといえるのではないでしょうか。その俳句の骨格を 踏まえて、既存の俳句に収斂しないことを意識しています。 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。 英霊の犇めき合っている稲穂 毅 花であることを忘れし液体よ 木形の脩長 (しゅうちょう) にして色青し 数千の鉛の活字春灯 藤万句はるかに生駒山霞み 七節の竹の自在や夏の月 紅梅を箙に差して鏖 一切を現在とする木下闇 ヒマラヤ想望 太陽の沈まず夜の傾斜かな 瀧迅し我の時間と異なれり 囁きはふいに始まり牡丹の芽 しみじみと蛍を抜けて来たるかな 一瞬の蝶の曳きたる無重力 裸木が想像力を突き抜けて 曾根毅(そね・つよし) 1974年、香川県生まれ。 撮影・中西ひろ美「蜘蛛の囲は梅雨の晴間を祝いけり」↑