竹下奈々子「定座には決して置かれぬ悔しさのかぼちやおくらの花の懸命」(「合歓」第114号)・・


 「合歓」第114号(合歓の会)、恒例のインタビューは「吉野裕之さん、髙橋みずほさんに聞く――植物系似たもの夫婦の『jaja bibi』出発」。聞き手は久々湊盈子、それには、


――このたび、吉野裕之さん、髙橋みずほさんはご夫婦で短詩型ユニット「jaja bibi」を起ち上げられました。まずは新しい出発、おめでとうございます。「合歓」のインタビューではこれまで、松平修文さん、王紅花さん夫婦に別々にお話を伺ったことはありますが、ご夫婦揃って、というのは初めてです。お二人とは加藤克巳先生の「個性」でお知り合いになってから、もう長いお付き合いですが、「jaja bibi」は前から計画されていたのすか。

吉野 そうですね。いつかはこうした形で雑誌を出したいと考えていたのですが、実際の準備を始めたのは今年になってからです。十年くらい前から二人で雑誌を出したいとは思っていましたが、まだ会社勤めをしていましたし、ぼくの方にエネルギーが足りなかったこともあります。二年前の三月に退職して少し時間ができたことと、精神的に余裕が出たということもあって、今年になってから、よし、やろうか、と言い出したわけですが、彼女は信じてくれなくて。

高橋 私は十年くらい待たされて、いつかはとは思っていましたが、ああ、ほんとに出たんだなという感じです。短歌ユニット「BLEND」のときもそうだったように、表紙の写真も誌面のレイアウトや用紙にいたるまで、彼はこだわりがありますから、私は一切口を出さないで任せていました。(中略)

――やわらかい感じのクリーム色で上質な紙ですね。活字の大きさとか、奥付とか細部に神経が届いていて、贅沢な造りになっています。添えられていたお手紙にヒントがありましたが、これ一音替えたら「jiji baba」で「じじばば(爺婆)になるんじゃない?

吉野 ええ(笑)。これから齢を重ねながら遊んでゆくのにいい名前でしょう。(中略)

すでに終わった恋のようなる秋の日にかがやく茄子をひとつもぎたり  

                              吉野裕之『砂丘の魚』

――『空間和音』の後、しばらく歌集を出されなくて、『ざわめく卵』が十六年ぶりの歌集だったんですね。

吉野 そうなんです。『空間和音』と『ざわめく卵』の間の作品はその後出した『博物学者』と『Yの森』に入れています。『空間和音』から十六年経って中年の歌をいきなり出すことで、緊張しましたが、ぼくとしては勝負を賭けた感じでした。賛否両論あった『空間和音』以降どう成長したのかと厳しく評価されるわけですから。(中略)

雨の匂いに満ちて木賊をつたう緑のしずく         髙橋みずほ『しろうるり』

――みずほさんは昨年七月に第十一歌集『蠢く』を出版されました。これまでの歌集ではかなり非定型の、独自の韻律や文体を持った歌が多かったように思いますが、今回は比較的、定型に添った歌でいい歌が、というか私の好きな歌が多かったのですが。

  球根掘ればみみずがいっぴき生はみずからうねりとなりぬ

  海面近く漂って魚となれずたべられた透明な 卵

などはまったく違和感なく読むことができますが、定型ではないですね。でも短歌として十分に鑑賞できます。みずほさんとしては、短歌の定量というか定型の柔軟度をどのように考えていらっしゃいますか。

髙橋 昔、結句五音で終わると指摘された時、二音足らないことに気づいていませんでした。ああ、足りなかったんだ思ったけれど、無理に足そうとはしませんでした。そのとき、短歌を諳んじる人は三十一音が身体に染みついている、私にはそれがないと感じました。それから字足らず、破調でも短歌といわれることをどう理解すればいいのかなと思ったときに、定型を音数ではなく「容量」という「空間」で受け取ると理解することでいいのでは、と考えるようになりました。


 とあった。ともあれ、本誌より、以下に、いくつかの歌を挙げておきたい。


 ほうたるをほたろうと呼ぶ人の歌眠れぬままに読み耽りたり     久々湊盈子

 富士のぞむ湯宿にひとりほろほろり初亀醸造「からからべっぴん」    庄司幹子

 日高市の創立記念日 市の旗と国旗はためく秋の実空に       渋谷みづほ

 「殺スナカレ、殺サレルナカレ」と貼り紙し抗議の断食したる寂聴   細川あつ子

 「好きなもの二番はビール」と言いくれし夫の一番我まだ達者     中山眞理子

 過ぎにし日欧州、国内旅ゆきぬ摂子がくれしもの二十五回       小林美瑳子

 「今回は薬が減らずすばらしい」富山の薬屋ニコニコ顔で        渡辺しな子

 人様の婚姻・出産にまで容喙す 妖怪太郎、溶解国家          菅原貞夫

 戦場跡(せんじょう)もマンション建ちて街となり上階からは秋の声する 牧野義雄

 「凍らすジェット」吹きかけつづける五秒間 特大ゴキブリ観念の相   藤島眞喜子

 よしなに、よしなにとはいかぬわが老いはホッケの骨に気をつけがら   小田亜起子

 ほんほんと蒲公英の絮毛ら飛び交うもどこが良いかと風に訊ねて      熊谷淑子

 すでにまぶしき朝陽を避けて細道をゆけば木の間より池の鴨見ゆ      吉田久枝

 まだ淡き陽を浴びてゆくけやき通り梢に空(から)の巣六つ見つけぬ    小澤典子

 夕立も白雨も驟雨もひそめけり線状降水帯の惨事に怯えて         柏木節子

 冥府あり、水の輪ありて……この世とはRINGのような銀色音色      山下雅人



 撮影・芽夢野うのき「日が当たるそこに冬来るわたしは生きる」↑

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