酒井弘司「水は詩神十月の水透きとおり」(『靑蟬抄』)・・


  酒井弘司第10句集『靑蟬抄』(ふらんす堂)、帯の句は、


  直立すジャコメッティのような秋     弘司

    

 その「あとがき」には、


 句集『靑蟬(せいせん)抄』は、『地気』につづく第十句集である。

 令和三年から令和七年までの五年間の三五四句を収載、八十代前半よりの作品である。(中略)

 句集名の「靑蟬(せいせん)」は、中国の詩人、李賀の作品、「南園十三首」の「靑蟬獨噪日光斜」からの引用に拠る。「靑蟬」は、ひぐらしを指す言葉。

 谷戸にある茅屋は、七月に入るとひぐらしが、こんもりとした森のほうから朝夕に哀愁をおびた声で鳴く。

 薄明の早暁は、彼岸からの声のようにも聞こえ、夕暮れは、ひぐらしが鳴き止むと、あたりの家々に明かりが灯される。

 そのような晴耕雨読の日常を「靑蟬抄」としてまとめた。


 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  山の神見えずに辛夷どっと咲く        弘司

  星涼しどの子もおなじ星に生き

     安井浩司さん逝く

  安井浩司よいまどこをゆく寒の星

     清水哲男さん逝く

  きぶし揺れ揺れる光のわかれかな

  戦火止まず辛夷は地平まで白し  

     峯の薬師

  えごの花白しだれもが還る土

  兵士という言葉は消えず長き雨季

  草のこころで咲いている赤のまま

  人は歩き木は立って待つ冬の星

  白梅やきょうあるものはあすはなし

  八十八夜寅年の夕美、杏子、悦子亡し

     秦夕美、黒田杏子、大石悦子さん

  父を嗅ぐ深き青空修司の忌

  朝から蟬声のかぎりの敗戦日

  大岡頌司・安井浩司亡し秋の暮

  八月六日水を両手に顔洗う

  八月九日大の字に寝る誕生日

  開戦日ノーモアヒロシマ・ナガサキ

  きのうより濃く生きよと茄子の花

  どの子にも地球の幸を星祭

    種田山頭火の小郡

  雨の日は雨でまたよししぐれ聴く

  冬青空永遠というひびきあり


 酒井弘司(さかい・こうじ) 昭和13年、長野県生まれ。



          撮影・鈴木純一「紙の留守たのむから一人にさせて」↑

      ムハンマド・アター  没(1968~2001)テロリスト

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