千野千佳「秋めくや弁当箱に箸の部屋」(『鴬餅』)・・


 千野千佳第一句集『鴬餅』(ふらんす堂)、装画は霜田あゆ美。序は、堀本裕樹。それには、

 

 (前略)彼女の軽やかさのなかには、驚くほどの粘り強い芯が強固にあったのだ。軽やかさと粘り強さを併せ持ちながら己の俳句を追求していく。これが千野千佳の真骨頂である。

   門松やうどんにつける小ビール

 冒頭から肩の力が抜けている。第一句集の劈頭ともなれば、力みが生じたり必要以上に飾りたくなったりするものだが、この飄逸さである。「小ビール」がいい。正月だから、ちょっと呑みたいのである。それで充分、という気持ちが伝わる。


 とあり、著者「あとがき」には、


 和田アキ子の名曲「あの鐘を鳴らすのはあなた」(作詞:阿久悠)に、「あなたに逢えてよかった あなたは希望の匂いがする」(JASRAC001-0051-0)という歌詞があります。十年前に出会ってからずっと、わたしにとって俳句は、「希望の匂い」がするものです。

 これからも俳句が「希望の匂い」のするものであるように、楽しみながら俳句を続けていきたいです。


 とあった。集名に因む句は、


  上向いて鶯餅を食べにけり         千佳

  茶に浮いてゐるは鴬餅の粉


 あたりだろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておこう。


  アイスコーヒー履歴書の端濡れてをり     

  ゆづりはや胎動に手のあつまり来

  胎の子が膀胱を蹴る初仕事

  ぶらんこを譲りつづけてゐる子かな

  詫びるやうな暑中見舞の届きけり

  売りものの鶯笛を吹いてをり

  蜜かけて葛切の線あらはるる

     能登半島地震

  海なにもなかつたやうに三日かな

  吹く人の鼻にのりたるしやぼん玉

  封筒を振れば形代出てきたる

  ニ三回余分にくぐる茅の輪かな

  柿剥くや触つて硬きところから

  セーターの上を涙はしばらく玉

  卒園式豆のやうなる椅子に親

  餌なげて鯉をうごかす夏休

  校歌にも川のぼり来る鮭のこと

  

 千野千佳(ちの・ちか) 1984年、新潟県上越市生まれ。  



        撮影・中西ひろ美「わけもなく秋思整列実の整列」↑

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