篠原鳳作「紅(べに)花の咲ける我家(わぎえ)に君来むは明日(あす)の午砲(どん)すぎひと時の頃」(『定本 篠原鳳作全集』)・・


 前田霧人編著『定本 篠原鳳作全集』(コールサック社)、帯文は筑紫磐井、それには、


 名前を聞くだけで心ざわめく詩人がいる。篠原鳳作だ。

〈しんしんと肺碧きまで海のやび〉……あの老獪な虚子さえ驚嘆せざるを得なかったほどだ。そこには昭和初期の短い青春が、氷柱に閉じ込められたように生き生きと残っている。

 評伝『篠原鳳作の季節〉の著者が渾身の力作を今ここにまとめた。


 とある。また、序は前田霧人。それには、


(前略)本年は篠原鳳作の生誕一二〇年、没後九十年に当たり、十年後の二〇三六年には没後一〇〇年を迎える。

 本書はそのような節目の年を期し、諸先輩による数多の篠原鳳作作品集に拙著『鳳作の季節』執筆時に得られた諸文献を加え、鳳作の全業績とその息吹きを簡潔・平易・正確に余す所なく再現し、後世に末永く伝えることを第一に、全く新しい方針のもとに再編集を施して、短歌、校歌を含む鳳作の全作品、書簡集、日記を収録し、「篠原鳳作論」、篠原鳳作年譜」を付して、『定本 篠原鳳作全集』として刊行するものである。


 とあった。冒頭の「鳳作の俳号、筆名について」に、


 まず俳号であるが、篠原鳳作(本名、国堅[くにかた])の俳号は使用順に、雲彦(昭和三年二月、昭和五年一月~九年十一月)、未踏(みとう、昭和四年十月~六年十二月)、鳳作(昭和九年十二月~十一年九月)、短歌の雅号は志乃原、自生である。

 また、昭和四年十月、彼は本格的に俳句を始めるに際し、俳句手帳「俳句手記」を用意するが、その表紙には、「気運生動 主客一如 雲彦」と明記されている。。

 全ての他書は彼の最初の俳号を未踏とするが誤りで、最初の俳号は雲彦であることは、その使用順からも「俳句手記」の記載からも明白である。

 未踏とは「未(・)だ俳壇に足を踏(・)み入れず」の意であり、昭和四年十~十二月の句会で用いられ、その間、本来の俳号である雲彦の使用と俳誌への投句は封印している。「京鹿子」に未踏の名があるのは鹿児島京鹿子句会報としての記載である。(中略)

 即ち、未踏は本格的な俳壇デビュー前の句会だけでの俳号であり、デビュー後は俳号雲彦の傍らで補助的、例外的に用いられた俳号であるに過ぎず、したがって、雲彦名義の文章はあっても未踏名義の文章は一編もない。(中略)

 次に文章を書く際の筆名であるが、彼は雲彦、鳳作の他に、使用順に佐々一郎、佐々木方朗、佐々木朗(佐々木方朗の誤植かもしれない)、佐々方朗と用いている。


 とあった。あと一例、篠原鳳作「新興俳句の弊」の結びの部分を引用しよう。


(前略)我々は連作の全(・)としての力を余りに過信して連作を形成する個の力を軽視(・・・・・・)してはならない。

 連作の尊重が俳句の個としての価値を軽視(・・・・・・・・・・)するの風を招致するような事があるならばゆゆしい事である。

 俳句は個(・)として『東洋の珠玉(しゅぎょく)』たらしめよ。

 連作をしてこの『東洋の珠玉』をつらねた首飾りたらしめ王冠たらしめよ。

                    (七月十六日記)/(「傘火」昭和十年八月) 


 前田霧人の掛け値のない労作、本書を是非、直接手にとられたい。ともあれ、本全集より、鳳作の句のいくつかを以下に挙げておきたい。


     首里、尚家(しょうけ)の桃原(とうばる)園所見

  炎帝(えんてい)につかへてメロン作りかな       鳳作

     海の旅

  満天の星に旅ゆくマストあり

  しんしんと肺碧(あお)きまで海のたび

     月光と塑像

  月光のおもたからずや長き髪

  あぢさゐの花より懈(たゆ)くみごもりぬ

  白芥子の妬心(としん)まひるの陽にこごる

     青子長逝

  詩に痩(や)せて量(かさ)もなかりし白き骸(から)

  にぎりしめにぎりしめし掌(て)に何もなき

  赤ん坊の蹠(あうら)まつかに泣きじやくる

  蟻よバラを登りつめても陽が遠い

  一塊の光線(ひかり)となりて働けり


 篠原鳳作(しのはら・ほうさく) 1908(明治39)年1月7日~1936(昭和11)年     

                 9月17日、享年30。

 前田霧人(まえだ・きりひと) 1946年、香川県高松市生まれ。



 撮影・芽夢野うのき「花野に捨てきた磁石ひろって下さい神よ」↑

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