西東三鬼「湖畔亭にヘヤピンこぼれ雷匂ふ」(『三鬼』より)・・
小林恭二著『三鬼』(講談社)、帯の惹句、帯文に、
大戦前夜の日本と南洋を疾駆する、天才俳人の流転のい運命。
史実とフィクションを融合させた、ノンストップ・歴史エンターテイメント!
異能の俳人・西東三鬼が、戦争のさなか、国家と言葉のせめぎ合いの中で、とんでもない経験をしたことは有名だ。でも、それをこんなふうにスゴい小説にしちまうなんて、読んでて震えたぜ。っていうか、おれが書きたかったんだけど・・・・・・。 高橋源一郎
戦争に雪崩込んでゆく最悪の時代にも、きらきらと夢を見続けてしまう。不屈のトリックスター魂に痺れました。 穂村 弘
『ゼウスガーデン衰亡史』を読んで以来、この小説を待っていました。 円城 搭
また、表紙裏側の帯には、
国家はなぜ、俳句を危険視したのか?
昭和15年、「京大俳句弾圧事件」発生。
治安維持法違反で同人が一斉検挙されるなか、新興俳句のカリスマ・西東三鬼は、思わぬ運命に巻き込まれていく。「特高警察」×「日本陸軍」、「インド独立運動」×「シンガポール華僑」×「イギリス軍事情報部」、「東南アジア盛衰史」×「俳句王国の興亡」……
戦争の影が迫る日本と国際都市シンガポールを舞台に、弾圧を強める特高警察と南方進出をもくろむ陸軍の間で、前代未聞の逃亡劇が幕を開ける――!
〈時代の転換点〉を描く、著者17年ぶりの新作小説
とあった。ともあれ「第十七章 ムーンライト・セレナード」の最後のごく一部と本書の中で引用された俳句をいくつか挙げておこう。
(前略)「みなさん、なんでもかんでも禁止のこのご時世、十一月にはついにダンスも禁止だそうです。戦地の兵隊を思って、銃後の者は誰一人楽しむべからずというのが当局の言い分なのでしょう。随分勝手な言い草ですが、ならばせめてそれまでは当局の嫌いな敵性音楽を流して、敵性ダンスを楽しもうではありませんか。我と思わん方はどうぞ前に出て、素敵な敵性ダンスをご披露ください。皮切りは不肖中年ドンファンこと西東三鬼があいつとめましょう」(中略)
「刑事さん、敬直に煙草をすわせてあげてもいい」/「だめだ」/「そう、だったら」
市子は三鬼に駆け寄って唇にキスをした。/「貴様」/若い刑事が市子をひきはがした。
「敬直、生きて帰らないとだめよ」
「わかった必ず生きて帰る。だから市子も生きて待ってなきゃだめだぞ」
「うん、必ず待ってる」/刑事が三鬼を挟むように乗りこみ、車の扉が閉められる。
「敬直」/「市子」/「愛してる」/「俺もだ」
車が動き出し、長者ヶ崎の根元を右に曲がってあっという間に見えなくなった。
市子は茫然とその場に立ち尽くす。/芳江が市子の肩を抱いた。
みなはしばらく三鬼が消えた方向を見ていたが、やがて一人また一人と別荘に戻っていった。
ハルポマルクス神の糞より生れたり 三鬼
水枕ガバリと寒い海がある 〃
不眠症魚は遠い海にゐる 〃
われは恋きみは晩霞(ばんか)を告げわたる 白泉
小林恭二(こばやし・きょうじ) 1957年、兵庫県生まれ。
★閑話休題・・城貴代美「サングラス街にワッフル焼く匂い」(月刊「ひかり」798号「西山俳壇」選者詠より)・・
月刊「ひかり」798号「西山俳壇」(西山浄土宗総本山光明寺内)、選者は、「豈」同人でもある城貴代美。以下に、評と入選句のいくつかを挙げておこう。
はんざきの意外に小さき眼としりぬ 芦屋市 門脇重子
【評】大山椒魚のこと。半裂きにしても死なずとか。京都の加茂川辺りで増水のあと居ることも。巨体に似合わずつぶらな目。井伏鱒二の小説を思い起こすとさらに興味はつきぬ。
初成りの曲り胡瓜を神棚へ 岐阜市 北村芳郎
ああ炎暑ゆらゆらゆれるアスファルト 一宮市 魚住芳子
守宮だけのこし黄泉路のひとり旅 宗像市 尚稚庵拙洲
老鶯や耳とぎすまし皿洗ふ 福岡苅田町 守 鈴美
葬送や四葩のこぼす雨しずく 東海市 大村すみ代
イマジンや停戦いまだ麦の風 京田辺市 植西万里子
撮影・中西ひろ美「明易し切れたら切れたで人の縁」↑

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