坂原八津「甘やかな伝説ひとつこしらえて壊したまちを抱きしめている」(『波』)・・
坂原八津第四歌集『波』(北冬舎)、その帯には、
はるか来て、帰ってゆく/わたしは/わたしを知らない
晒されながら、染められながら、時間であり、空間である世界を表現する、
独行の第四歌集!
とある。著者「あとがき」には、
(前略)歌をまとめながら、「水」に関連したものが多いと思いました。歌集名の「波」はそこからきています。ただ、波は水に起こるものだけではありません。波は、振動が周囲に伝わる様子をいいます。空気中や宇宙においても波は存在します。
伝わる波も、伝わらない波も、感じられない波もあるでしょう。歌集名を決めてからいろいろ考えると楽しくなりました。
これらの波はどんな波になっていくのでしょうか。
とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの歌を挙げておこう。
木製の戦闘機模型を燃やす 寓話でも歴史でもなく忘却として 八津
物語の生まれる場所にたっている呪いの言葉呪縛の言葉
虫ピンで留められている虫の死骸 虫ピンだけを残しくずれる
耳の奥に宿る瀧音 水系をいくつたどれば行きつくだろう
オナモミは絶滅危惧種 墓山でいまくっついてくるのはやめろ
切り傷の深さではなく擦傷の面積だけを見せあうのだな
たわむれに白木の橋を渡るとき白い衣を着てはいけない
どの辺りで迷いましたか
オオカミはとうに滅んで笑う山並み
神蛇と名付けるこの山のざわざわとした山肌に居て
手を合わす無言の時を抱くためいだく空虚を内に持つため
眼前のこの現象もようするに身体の中カギと鍵穴
うつむいて立つ人ばかりおそらくは視線の刃を抜かないために
それぞれのざわつく水面に投げる石 分断という字をけすための
ストレスをかけないように釣り上げてころしたうをは美味しいらしい
自らの罪など知らぬ石つぶて言葉の石を投げあう街で
坂原八津(さかはら・やつ) 1958年、愛媛県生まれ。
撮影・芽夢野うのき「夢の道づたいにしづか花むくげ」↑

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