大塚凱「甘皮を剥いてあらゆる日永かな」(『或』)・・


  大塚凱句集『或』(ふらんす堂)、珍しく、著者の「あとがき」も誰かの序文や跋文もなく、作品を読むため一切の飾り、手がかりは無く、ひたすら作品を読むしかない句集で、最近では珍しいシンプルさである。装幀も糸かがりがそのままむき出しで、カバーも勿論ない。表紙だけの一冊である。これもシンプルといえばシンプルである(シンプルでないのは句の題の多さで愚生には難しかった)。若い作者ゆえ、本文活字は小さい。愚生は、すでに天眼鏡を片手に読み進むよりほかに手立てはない。という言い訳も手伝って、ほぼ、見逃していると思うが、つまるところ、愚生好みに偏する、いくつかの句を、以下に挙げておきたい。


  絵に描いてゐるとさくらがくづれだす     凱

  帰りくる帆があり秋の名もない帆

  白昼をぶらんこの見えるまで見る

  ひがしその白い流木そのワルツ

  逃れても月ありあまる都心かな

  水澄んでゆき何の実か忘れ去る

  文体がちがふ夜食のまへとあと

  ハンカチが鳥にもどらぬやうに畳む

  編み目から日差しこぼれて鳥交る

  積み木もう積む木がなくて風の秋

  デネブ・ベガ・手は淋しくて水を買ふ

  吹かれたら光る葦さういふことさ

  午後のひかりうはごとがちに菌生え

  竜頭巻く寒林のまんなかと思ふ

  夜長あなた僕の弱火が強いといふ

  空蝉やつむじにひびく雨の芯

  そんな気のして湯豆腐の灯に帰る

  夏の夜の紙から紙の蝶を逃がす

  ばつたんこ何回忌かが急に来て


 大塚凱(おおつか・がい) 1995年、千葉県生まれ。



      撮影・中西ひろ美「ひそひそと小滝は人を集めつつ」↑

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