林誠司「春の雪ときをり胸をゑぐりけり」(『海光』)・・
林誠司第3句集『海光』(俳句アトラス)、帯文は村上鞆彦、それには、
海への尽きせぬ愛着を、海が確かに受けとめてくれているという手応え。
句集名に「海光」を選んだのは、そんな自負の表れではないか。雄々しく、それでいて稚気を失わない純真な詩心の貫流した一冊である。
とある。集名に因む句は、
海の日やただよへるものみな光 誠司
ではなかろうか。また、著者「あとがき」には、
第二句集『退屈王』を刊行してから十数年が経った。第二句集の後半で旅吟の楽しさ、その大きな詩の世界を知り、旅に暮らした松尾芭蕉への憧れが急激に強くなった。「東海道の一筋もしらぬ人、風雅に覚束なし」(『三冊子』)という彼の言葉を杖に東海道を歩き、中仙道を歩き、『おくのほそ道』の道中を自分の脚で少しずつ歩き続けて来た。そこで共感したのは「不易流行」「万物流転」「雪月花」の思想である。「雪月花」は四季折々の美しさという意味だけでなく、美しい四季の風景との出会いを通して生まれる“人恋い““人なつかしさ“の思いである。(中略)
短いからこそ壮大な詩の世界、詩の宇宙を表現する、それもまた俳句の醍醐味と言える。もちろん俳句は俗の文学、生活の文学でもあり、身辺詠もまた魅力である。ただ、私自身は今、たった十七文字でどこまで大きな世界を表現できるだろうか、ということに興味がある。
とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
叔父を悼む
夏雲や元過激派の荼毘けむり
おほかたの古墳あらつぽ稲穂風
失ひしものも浮かべし柚子湯かな
荻窪に月さしわたり秋燕忌
干鮭やはじめきらめく海の雪
出航の小さき虹を手ばなさず
舟施餓鬼銀河の続くばかりなり
Sさんを悼む〈青岬立ちて地球の外にをり〉の句あり
君ゆきて海の青さの濃竜胆
横須賀港
霧青しかつて米軍倶楽部跡
短日やもらひそこねしあぶく銭
年の瀬やセコム貼りたる駐在所
「んだんだ」のあと大笑ひ鮑海女
うみがめや海の底にも地平線
林誠司(はやし・せいじ) 1965年、東京都荒川区生まれ。
撮影・鈴木純一「信心のなくて春立つ白い飯」↑

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