坪内稔典「うっふふふ苺を雪が包む夜」(『リスボンの窓』)・・


  坪内稔典第13句集『リスボンの窓』(ふらんす堂)、その「あとがき」に、


  リスボンのコメルシオ広場のそばに小さな靴屋があって、その靴屋の裏のホテルに泊まっている。ホテルというよりも下宿屋と言うべきか。ついさっきまで靴屋のオカミさんが来ていて、エドワード七世公園の見どころを話してくれた。今日はこのあと、その公園に出かける。靴屋の大学院性の息子は日本語の勉強をしており、彼に連れていってもらうのだ。このホテル、実は靴屋がオーナーである。(中略)

 七〇歳で大学を退職した私は、時折、リスボンの靴屋の裏へ行き、気ままに過ごしてきた。その気ままな気分がもしかしたらこの句集にあるかも。ともあれ、わたしは現在七九歳、気ままさが日々に増す感じがしている。気ママと言うより耄碌かもしれないが、ままよ、リスボンの空は今日も青い。


 とあった。また、本集の名に因む句は、

 

  リスボンの靴屋の窓かヒヤシンス     稔典


 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、いくつかの句を挙げておきたい。


  オレンジの花の真下があなたかも

  鬼百合は発火寸前半島も

  青柿のころころ左派のぼいくたちも

  ころがしておけ冬瓜とこのオレと

  父の日は木にぶらさがれ父も子も

  油蟬ばっか弟三回忌

  友だちはいない人参だけはある

  シロサイの影はクロサイ十三夜

  転がって柿に生まれる柿の影

  今日は夏至礼子が足を投げ出して

  一雨(いちあめ)二雨三雨以上メダカの名

  出アフリカの午前のように黒揚羽

  犀は立つ端的に立つ風は秋

  バッタ飛ぶ五世紀ころの空へ飛ぶ

  水海月湧いた危機的民主主義

  名を知らん山々葡萄の名も知らん


 坪内稔典(つぼうち・ねんてん) 1944年、愛媛県西宇和郡伊方町生まれ。



★閑話休題・・黒田杏子「花巡るいつぽんの杖ある限り」(黒田勝雄氏便りより)・・ 


 (前略)妻。黒田杏子の一周忌を前に、二月に墓が完成しました。二十五日に親族で納骨、一周忌法要を行いました。墓に句集『八月』の一句を刻み、句碑を兼ねたものにしました。杏子がエッセイでふれている縁ある法眞寺(東京都文京区本郷5丁目)本堂裏、中ほどにあります


 とあった。



     撮影・鈴木純一「春の雨なかったことにするもよし」↑

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