神野紗希「眠る子は屍の重さ月朧」(「俳人『九条の会』通信」第25号)・・

 

「俳人『九条の会』通信」第25号(俳人「九条の会」事務局)、メインの記事は、昨年、2022年の「新緑の集い」(4月9日、於:北とぴあ)での講演録2本、神野紗希「戦争を知らない私たちが、戦争の句を読む/詠むこと」と小田川義和「憲法施行七五年・壊憲から活憲の道に――政治の場で強まる改憲論議批判ともかかわって――」。ここでは、神野紗希の講演録を紹介したい。


  (前略)もう一つは「戦争を知らない」と言いましたが、「私たちは本当に知らないと言っていいのだろうか」という問題があります。過去の戦争だけでなくて、今まさに、ロシアによるウクライナ侵攻が続いている最中です。これまでにもアフガニスタンでの戦争、シリアでの戦争がが起きました。今も世界中でたくさんの弾圧や紛争が続いている事実があります。(中略)

 今日は、俳句を作り、新興俳句を研究してきた人間として、そして小さな子どもを育てている母として、戦争を俳句の中でどう受け止めて、あるいは詠んでいけばよいのかということをお話ししたいと思います。(中略)

 これは、三月三〇日付け「中日新聞」に掲載された記事から引用しました。ウクライナのハリコフという都市に住んでいる二三歳の女性でウラジスラバ・シモノバさんという方が、まさに今、侵攻を受けている立場から詠まれた俳句です。

  破(や)れ屋の穴より望む星はるか

 英語の原文を記者の方と俳人のマブソン青眼さんが和訳して整えたものです。(中略)

   母も死に子も死に河が流れてゐた   窓秋

 これは、かつての日本の貧困や厳しい労働の現場に付随する風景として書かれているのですが、今のウクライナでおそらく起きているであろう出来事がこの句である言われてもおかしくない普遍性を持っています。(中略)

 それで戦争の時代になった時に、じゃあ戦争を文語で詠むか口語で詠むか。口語というのはつまり肉声です。一人の人間が生きて発する、生身の肉体から出て来る言葉が口語です。(中略)

 文語を用いて何か一つの真理のように上から降りてくるのではなくて、ボトムアップのように一人の人間の言葉としていつもまにか私たちの心の中に、誰かの声として響いている。そういう戦争の俳句を新興俳句は作り得たということです。(中略)

   カンバスの余白八月十五日

 この句は高校三年生の時に俳句甲子園の現場で、金曜日の夜に色の「白」という字を入れて翌朝までに出せという兼題が出て作った俳句です。

 私の祖父は愛媛・松山の瀬戸内海に面したところが実家で、まだ小学生だったため戦場には行きませんでしたが、八月六日の朝に対岸にキノコ雲を見たらしいのです。松山ですから向いは広島です。(中略)

 知らない立場、経験していない立場で詠むことに抵抗があった時代もありました。でもそれも未来ということを考えた時には、全ての人が当事者のこととして捉えることができるわけで、体験している、していない、遠い、近い、そういうことを抜きにして、私の心がどれだけ近く考えられるかということ、未来のこととして捉えられるかということで言えば、あの時悩んでいる私を、今の私は背中を押してあげられると思います。(中略)

 戦争を知らない私たちが戦争を読む/詠むことで、未来を考え、未来を作り出す。そのためにこういった俳句を読み、そして私たちも作って行くことに大きな価値があると信じています。


 とあった。講演録から、以下に、いくつかの句をあげておこう。


   西瓜切る少年兵のいない国        神野紗希

   海にミモザ瓦礫に産声が上がる       〃

   屋根屋根の夕焼くるあすも仕事がない  栗林一石路

   鉄工葬おはり真赤な鉄うてり       細谷源二

   特高と話す間も惜しい晴れた朝だ     中村三山

   墓標立ち戦場つかのまに移る      石橋辰之助

   赤く青く黄いろく黒く戦死せり      渡邊白泉

   征く人の母は埋もれぬ日の丸に     井上白文地

   千人針はづして母よ湯が熱き       片山桃史

   大戦起るこの日のために獄をたまわる   橋本夢道

   遺品あり岩波文庫『阿部一族』     鈴木六林男

   ひでり野にたやすく友を焼く炎      佐藤鬼房

   やがてランプに戦場の深い闇がくるぞ  富沢赤黄男

   あやまちはくりかへします秋の暮     三橋敏雄



★閑話l休題・・4月15日(土)午後1時~「俳人『九条の会』新緑の集い」(於:北とぴあ)・・


 「俳人『九条の会』新緑の集い」(主催:俳人「九条の会」)、4月15日(土)午後1時~於:北とぴあ(JR王子駅北口3分・地下鉄南北線王寺駅5番出口直通)。講演は、

・新聞記者・望月衣塑子「軍拡、増税・・・、戦争する国を目指す岸田政権~問われるメディの役割

・俳人・日下野由季「いのちの俳句ー野澤節子ー」

・参加費 1000円  



       撮影・芽夢野うのき「晩春や爛漫といふああ無常」↑

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