米山幸喜「そこここに老人がゐて冬ぬくし」(『炎帝』)・・


 米山幸喜句集『炎帝』(草土社)、解説は酒井弘司「つぶさに見える現在」。その中に、


 米山さんとは、お互い十代からの俳縁だから、もう、かれこれ七十年近くになる。(中略)

 今回の句集『炎帝』は、平成二十三年以降の作品が中心であるが、米山さんの七十代以後の境地をまざまざと見る思いがする。

 なかでも、最初に飛び込んできた句は、

   元朝や波郷のうるはしき書軆

   金箔のぐい飲みありて波郷の忌

 この二句は、米山さんが「鶴」脱退前後の作か。一途に石田波郷につながる作品である。(中略)

 セーレン・キェルケゴールは、わたしたちのこの世での日常を『死に至る病』という書物にしたが、それは延々と続いた日常の終焉への道とも言える。

 今回の句集では、死へむける眼差しも、近辺にみえる。

     弟、彰逝去

  秋思かな死後もえんえん話し掛く

  さっきまで生きてゐしひとうすら寒    (中略)

 それでも、次の一句、

  泳ぎ来てアルキメデスをふと思ふ

 の句があること。この非日常性もよしと喝采を送りたい。


とあった。また、著者「あとがき」には、


 句集名「炎帝」は朱夏のイメージから浮かびました。「火や夏をつかさどる神」として、この上梓を見守っていただければの思いもあります。 

 人生百年時代を迎えます。かのサミュエル・ウルマンは「一生勉強、一生青春、学び続ける意欲がある限り、人は永遠に老いることはない」と言います。これからも十七文字を媒体として日々のメモリー、アイデンティティーとしての句作を継続したいものです。


とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  読初の栞にありし波郷の句          幸喜

  生きざまを問はれてゐたり多喜二の忌

  リラ冷えの腕に重き異端の書

  税引きの稿料といふ四月馬鹿

  踏青や茶目つけが先づ躍り出て

  饒舌な詩人の長き昼寝かな

  兄弟は遂に我のみ夏帽子

  サングラスかければ湧きぬふたごころ

  死を拒む意志薄れゆく星月夜

  甘口も辛口もまた新走

  正座してをりしか八月十五日

  老人に夢あり紅葉且つ散れり

  垂乳根の命受け継ぎ木の葉散る

  初雪の森羅万象のなかにかな

  生き死にの境地というて猛吹雪

  賽銭を上げたるあとの大嚏

    石塚友二師葬儀

  友二亡し風花といふ雪ならん


 米山幸喜(よねやま・こうき) 1936年、小樽市生まれ。



     撮影・中西ひろ美「どこへ行く春待つ人のいる方へ」↑

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