小澤實「志文芸にあり藪虱」(『小澤實前期句集集成』より)・・


 『小澤實前期句集集成』(ふらんす堂)、著者の「前期句集集成刊行についてのあとがき」には、


 句集『砧』『立像』『瞬間』それぞれが、絶品品切れになって、長い。三句集を再録した『小澤實集』もまた、絶版品切れになってしまっていた。

 ここに三句集および『礼の形』を収録して『小澤實前期句集集成』を刊行する。

 この三句集に収めた句は、ほぼ旧師藤田湘子の選に入った作品である。湘子の選と向き合わなければなしえなかった作品である。あらためて、師に謝意を述べたい。(中略)

 現時点において、わが中期、後期の句集がどうなるのか、まったくわからない。いつ中期が終わるのか。すでに後期が始まっているのかもしれない。ただ、その作品の充実のために、日々努めていくしかない。(中略)

 本書を「澤」創刊二十六周年記念出版として上梓する。


 とあった。そして「礼のかたち/こころには、姿がある」から一篇を紹介しておきたい。


 梅雨に入り鬱陶しい毎日がつづいています。こんな日は君に会いたくなります。

 国宝に指定されている垂迹曼荼羅である「那智瀧図」に対して

 君よばわりしてもうしわけありません。

 昨秋、久しぶりに根津美術館で君を見ました。

 以前の公開のときにも見ていたのですが、それは修復がなされた直後で、

 実は落胆したのです。

 画面が洗われて像が明るく鮮明になったのですが、

 全体から神秘性が失われているような気がしたのです。

 それが今回会って、峻厳な神秘的な絵であると思っていた君が

 実に親しみ深い風景画であることに気付いたのです。(中略)

 君の作者は神聖な瀧そのものとわたしたち人間とを君を通して結びつけているのです。

 ぼくらは自然の風景がそのまま神となる伝統のなかに生きています。

 しかし、ふだんその感覚を忘れてしまっています。

 それを呼び起こしてくれるのが君なのです。

   平成十四年六月二十日

                  小澤 實

 那智瀧図録様

   那智瀧図に香木を贈る

 瀧しぶき浴び立ちつくすばかりなり 


 とある。ともあれ、本集より、いくつかの句を挙げておきたい。


  さらしくぢら人類すでに黄昏れて       實

  ゆたんぽのぶりきのなみのあはれかな

  ふはふはのふくろふの子のふかれをり

  河童忌や手もて蝶なす影遊び

  寒鴉老太陽を笑ふなり

  生きて憂しおほさんせううを在ること憂し

  ハケに降る雨明るしよ紅葉初む

    世界中の子どもたちにお年玉を贈る

  あらたしき年が年玉漏れもなく

    夏目漱石に空也最中を贈る

  昼霞渋面ほどきたまへかし

    小野小町に老眼鏡を贈る

  月差せる一間にひとり老いゆくか

    ドナルド・エヴァンスに切手を贈る

  秋澄みぬ切手の空もわたつみも


 小澤實(おざわ・みのる)1956年、長野市生まれ。



★閑話休題・・北夙川不可止「独房の窓に内鍵付きてをり吾に唯一自由なる鍵」(北夙川不可止・伯爵・第二歌集『ねこのあたま』より)・・


 6月27日(土)は、北夙川不可止(伯爵)第二句集『ねこのあたま』出版記念会(於:入谷・銀狐)が台風8号、7号の合間を縫ってつつがなく開催された。案内には、


 会場の「銀狐」は旧「アララギ」入会当初からのライバル歌人である短歌結社「短歌二十一世紀」選者の小川優子さんのお店で,若い世代が芸術論を戦わせていたり、ちょっと70年代アングラ全盛期を彷彿とさせる素敵なお店です。


  とあった。愚生は出かける時も雨はパラパラ、帰宅時には、雨も上がって月が出ていた。伯爵ともども、基調は晴れ男なれば‥‥。


 

    撮影・中西ひろ美「梅の実落つほどほどの静かな町に」↑

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