木村晋介「妻ですか虹の水替へしてをります」(『句集のやうな』)・・
木村晋介著『句集のやうな』(朔出版)、序は仲寒蟬、栞に宮部みゆき「これこそが俳句の力」、夢枕獏「釈迦も思わず……」、坪内稔典「天国と死顔」、北大路翼「距離感の名人」。中書きに椎名誠「晋ちゃんの名作『たき火節』」、そして、著者「後書き」の中に、
(前略)さて、私のこの句集には、四つの特徴があります。(中略)わが句集では、俳句は基本一ページに一句としました。こうすればページの余白が余韻となり、一句の持つ喜怒哀楽の情をうまく読者に伝えることになると考えたからです。これが、第一の特徴。
第二の特徴は、原則一句ごとに、即(つ)かず離れずのショートエッセーをアレンジしたことです。仲寒蟬さんが序文でおっしゃっているように、私の句の本分は、読んで楽しんでいただきたいということにあります。これにエッセーを添えることによって、私の一生の中に在る出来事が、私の犯した過去の過ちが、今は亡き父母の生きざまが、あるいは私の妄想が、句に乗り移って句の鑑賞を豊かなものにする、より楽しいものにすると考えたからです。
第三の特徴は、他の俳人の方々を多数引用したことです。それは、同じようなテーマでも、私とは違うさまざまな詠みのバリエーションが俳句世界には展開されていることを知っていただきたかったからです。(中略)
私は句集のつもりなのですが、ちょっと引いたタイトルにしました。これが四つ目の特徴です。
とある。あるページの句と、添えられたエッセーの一部を引用する。
老いるとは流れ解散鰯雲
流れ解散、六〇年、七〇年のころ、デモでよくありましたね。解散地点は土橋や鍛冶橋の交差点あたりとか、日比谷公園とか。「鰯雲」は秋の季語。古い友人が、五月雨的に、流れ解散的にこの世を去っていく。有名人であれば、去ったときには記事になる。それでも、あの俳優は死んだのか来ているのかわからなくなり、スマホで生存しているか調べることがある。我ら一般人の生存確認方法はほとんど記憶に頼るほかない。
かくして生死の確認ができない友人の数は、いわし雲のように流れて増えていくのである。
デモの年汗に腐りし腕時計 沢木欣一
屋上は青年のものいわしぐも 大牧 広
鰯雲消えて旅愁は消えざりし 藤﨑久を
ともあれ、以下に、本書より、句のみになるがいくつかを挙げておきたい。
晩年もサユリストなり花は葉に 晋介
もういいと母逝きし日や寒椿
朧めく父戦友を嫌ひけり
梟に盗られたらしいパスワード
花屋ですたんぽぽ売つてをりません
湯冷めせしことのみ記す日記かな
国籍は冷やし中華と名乗りたし
海の色まるで残さず秋刀魚焼く
寝釈迦にも動体視力春の蝶
落陽の色の限りを雁渡る
死者もまた化粧して観る冬花火
狸かと問へば狸と答へたる
地下鉄サリン事件から三十一年
地下鉄に乗れぬ人ゐる彼岸前
番長の顔消せぬまま新社員
微力とは無力にあらず開戦日
雪しろや妻はどなたと聞くだらうか
木村晋介(きむら・しんすけ) 1945年、長崎市生まれ。
6月27日 トーベ・ヤンソン 没(1914~2001)

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