こしのゆみこ「呼び継ぎの湯呑み回すや開戦日」(「豆の木」No,29)・・


 「豆の木」No,29(豆の木)、2024年代30回20句競作「豆の木賞」に、有瀬こうこ「月夜茸」。評論に片岡秀樹「言霊と戦争 巻の陸/筑波問答歌篇(上)愛の章」、毎号楽しみな「こしのゆみこ 旅ノート㉗ 弘前・青森・金木・秋田紀行」。


  さくらんぼふふみてわれを笑わかす      こしのゆみこ


句集評欄は充実。田中泥炭「花のうつそみ―佐々木紺『平面と立体』評―」、広瀬ちえみ「ホンジツモテイネンヲシキネムルナリー中内火星句集『シュルレアリスム』評ー」、堀切克洋「全音のエチュードー月のぽぽな『人のかたち』に寄せてー」、皆川燈「『たましいのいれもの』考ー嵯峨根鈴子第四句集『ちはやぶるう』を読むー」。

 ともあれ、本誌本号より、いくつかの句を挙げておきたい。


  さかむけを故郷と思ふ薄氷          有瀬こうこ

  木枯しと親し街角喫煙所            上野葉月

  腕まくら抜き室咲きの香の厚く         内野義悠

  心臓を木の葉のやうにして眠る         大石雄鬼

  青鷺は人間界に立つてをり           岡田由季

  人類の最後の形である花野           小野裕三

  ゴシック体嫌ひな紙魚のゐるらしき       柏柳明子

  木炭もダイヤも炭素労働祭           片岡秀樹

  風の殻いま開きしが秋の蝶          川田由美子

  生き延びむ夢鮫は見ぬちのあをと        楠本奇蹄

  さるすべりもう息の吸いにくい距離        近 恵

  黄泉までは身過ぎ世過ぎの酔芙蓉       嵯峨根鈴子

  青嵐ひとを庇ふに人殴り            佐々木紺

  人の日の穴ぼこ焼け焦げて無数         田島健一

  柚子いびつ明日は笑顔を売る仕事        田中信克

  ありがとうのようなごめんねシクラメン    月野ぽぽな

  性別不詳の人体模型春の蠅          鳥山由貴子

  青になるまで待つ赤い煩悩           中内火星

  大南風妻に馴染まぬ猫ねむり          中嶋憲武

  点けて消して半分眠る白泉忌          東濃 誠

  苗札に紙飛行機の端乗れり          東濃万利子

  ゆふぐれを富裕層めく雪だるま        三島ゆかり

  白黒世界の白でありなんシクラメン       三宅桃子

  川よりも広き蛍の夜なりけり         宮本佳世乃

  水澄んで四角き家の四角き町          山岸由佳

  卒寿の父と米寿の母や初御空          吉田悦花

  蕾揃えば小さな星座寒椿            吉野秀彦

    


   撮影・中西ひろ美「元気かと言わばひまわりほどでなし」↑

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