龍太一「遠雷は廃炉の呻きみちのおく」(『SKY・BLUEー生きとし生けるものたちへー』)・・


  龍太一第三句集『SKY・BLUEー生きとし生けるものたちへ』(飯塚書店)、序文は高野ムツオ、跋は若井新一、帯文は井上康明。


 仏像の背は粗削り霾晦(つちぐもり)

 由緒ある寺院の大日如来、どっしりと坐った背中に、荒削りの鑿痕が刻まれ、空は中国大陸から飛来した黄砂にによって霞む。作者が捉えた如来の背の鑿痕というたしかな手応えが、海を超え大陸の遥かな時空へ、悠久へと及ぶ。


 とある。投げ込みの栞は、津髙里永子「永遠に無限の『SKY・BLUE』俳句取扱説明書」。その中の「おわりに」に、


 俳句への計り知れない愛情から体力気力の殆どを費やして、作者、龍太一氏は「どの季の句でも今、作ろうと思えば作れる」と胸中には常に句材を溜め込まれている。一方で、多作多捨の実践者でもある。

 一緒に参加している同人誌「墨BOKU」は現在九号を刊行。一度に十句ずつ、計九十句発表した句があるはずなのだが、この句集に入っているのは数え得てみたら十五句のみであった。(中略)

  終末時計八十九秒年つまる

 世界終末時計は、人類絶滅(ドゥームズディ)の時を午前0時と想定して、核戦争や気候変動などによる人類の生存を脅かす危機度を残り時間で象徴的に示す時計。アメリカの科学誌が、一九四七年から毎年公表している。ちなみにニ〇二五年はあと八十九秒しかないと公表された。


 ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  赤子みな同じ泣き声猫の子も        太一

  人住めばどこも一隅春灯

  日月に蝕及ぶかにやませ来る

  正午こそとことは正午敗戦日

  海底はつねに陸押し神の留守

  山あるがまま川もまた月の秋

  被射体は人間(ひと)空爆も秋の蚊も

  関東は灯の海山脈(やま)は寒茜

  霜の夜や家霊が梁を軋ませる

  身に添ふはおのが影のみ冬灯

  熔融の劫火はむつの鬼火なり

  

 龍太一(りゅう・たいち) 1943年、栃木県生まれ。



★閑話休題・・井澤勝代「最後まで被曝牛飼ふ草若葉」(「立川こぶし句会」)・・


 5月8日(金)は、立川こぶし句会(於:立川市女性総合センター アイム)だった。以下に一人一句を挙げておこう。


  滝落ちてしぶきを纏う新樹光       伊藤康次

  うまい米作る意気ごみ田水引く      井澤勝代

  自作皿魯山人ぽく初鰹          和田信行

  大輪の薔薇のつぼみよ多望なり      山蔭典子

  ご破算で一からやるよ薫る風       川村恵子

  ベネチアの河畔にゴンドラ朧月      高橋桂子

  多摩川辺野いばらの香満ち満ちて     三橋米子

  従容としておもむく空の五月かな     大井恒行 


 次回は、6月12日(金)。

           撮影・中西ひろ美「めでたさは緑のなかの若緑」↑

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