長井寛「白樺派の花見大正デモクラシー」(『十七会(となかい)』)・・

 

長井寛第二句集『十七会(となかい)』(現代俳句協会)、その帯に、


 渾身の六〇〇句。心髄を煮詰めては絹糸を紡ぐ。その絹糸を丁寧に織り上げると真っ白なことばの綾になっていく。そんな一七音の感性を届けられれば望外の喜びである。


 とある。また「あとがき」には、


 二〇一六年に第一句集『水陽炎』を上梓しました。以来およそ八年の歳月が過ぎ去りました。(中略)

 来し方を振り返ってみますと、出版社勤務を含めて只管に「ことば」を追い求めてきた道程でした。追い求める「ことば」に終着点はありません。「ことば」の海に放り出されながらもなんとか息継ぎをし、浮沈を繰り返してきました。句集上梓が一区切り、二区切りになるものと思っています。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。


  夏椿雨の重さを諾えり          寛

  風に木漏れ日芭蕉に蟬しぐれ

  桃吹いて耀(かがよ)うている水の玉

  己がすむ此の世と彼の世春障子

  水馬円周率を抜け出せず

  鹿啼いてふたつに裂ける闇溜り

  電子という激流前に春惜しむ

  千枚の棚田に落ちる夏の月

  8月と13階を遣り過ごす

  落日の見ざる聞かざる竈猫

  聖地にも蹂躙ありて鵙猛る

  しろがねの乙女の朱唇冬の梅

  大江戸に狸穴ありて梅雨の月

  透明の水に色あり桜桃忌

  杼(ひ)の調べ夢寐寐(むび)に忘ぜずちちろ虫


 長井寛(ながい・かん) 1946年、新潟県生まれ。



      撮影・芽夢野うのき「岸辺なき川を漕いでは夢見草」↑

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