福本弘明「歳時記の雑の終わりに人類忌」(『梨の木』)・・


 福本弘明第四句集『梨の木』(文學の森)、その「あとがき」には、


  第三句集『SHOW BOAT』から十五年が過ぎた。駄句の山から二百五十句を拾い集めて第四句集とした。タイトルの『梨の木』は、〈還暦の少年梨の木を植えん〉による。「桃栗三年柿八年」に続く言葉はいろいろあるが、「柚子は九年で花が咲く、梨の大馬鹿十八年」と書かれていた葉室麟氏のエッセーが気に入って句にしたものだ。

 還暦を迎えたときに、残りの人生を長くても十八年くらいだろうと思い定めたのだが、すでに九年が過ぎた。あらためて光陰人を待たずを思い知り、昨年の六月に職を辞した。


 とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  客としてこの世に来たり初日受く        弘明

  日の丸と豆腐は木綿敬老日

  大枯野火のつきにくい奴ばかり

  還暦の少年梨の木を植えん

  花筏遠目にしかと黄泉の国

  少年の頃にも蒔きし種を蒔く

  睡蓮が見ごろ贋作美術館

  「生」の字の読みはいろいろ秋深し

  外されし梯子もともと秋の虹

  バス停の向かいのバスの亭冬日中

  裸木となりて阿修羅は無二の友

  ありがとうの数に足らないカーネーション

  春隣ショパンの後に聴く志ん朝

  坂の上の雲に拳や長崎忌

  

 福本弘明(ふくもと・ひろあき) 1955年、北九州小倉生まれ。



      撮影・鈴木純一「西行忌木を見ていると森見えて」↑

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