岡崎るり子「鯛焼にある糊しろに似たるもの」(『クールベからの波』より)・・


 木戸博子著『クールベからの波』(石榴社)、帯の惹句に、


 本書の精読者は、読むほどに、自分が見知らぬ場所に来ているのに気づくだろう。あなたはどこまで行くのか?         ―小久保 均

  偏愛する本、絵、映画、旅を巡る超エッセイ


とある。また著者「あとがき」には、


 文芸誌『石榴』を発刊してから十年が経つ。『石榴』に書いた書評を中心に、他の雑誌に書いたエッセイや考察をまとめてみた。(中略)

 先日、トスティの歌曲『別れの歌』に「出発すること、それは少し死ぬこと」という一節があることを知った。このニ、三年、大切な人たちとの別れを経験した私も、本書を編むことによってあらたな場所に向って出発したいと願っている。


  とあった。ブログタイトルにした「鯛焼にある糊しろに似たるもの」岡崎るり子の句は、本書中の「糊しろに似たるもの―ー香月泰男展『平和への祈り』その生涯とシベリアシリーズ ひろしま美術館」に出てくる句。その他に、「網走監獄博物館雑感」の項では、読み人知らず、無記名の句として『塀の中の歳時記』から受刑者の句として、以下の句が紹介されている。


  音だけの花火に郷愁うづを巻く

  転落の底から草芽這い伸びる

  愛欲しバラのたわみに掌を支う

  耐える日は無言枯菊びしと祈る

  虫聴き合う共に悲しさには触れず

  禁歩行区カンナほろほろ燃えている


 著者の木戸博子は昨年、秋山博江の名で句集『全肯定』(私家版)を上梓されている。


 木戸博子=秋山博江(あきやま・ひろえ) 1949年、広島県三次市生まれ。



★閑話休題・・羽村美和子「目交に狐火が棲む帰還兵」(第166回「豈」東京句会)・・


 1月25日(土)は、隔月開催の「豈」東京句会(於:ありすいきいきプラザ)だった。以下に一人一句を挙げておこう。


  むささびを見た夜は青い眠り薬       羽村美和子

  見つめ合っているうち凍鶴になる      杉本青三郎

  日脚伸ぶ弖爾乎波はまだ手くらがり      川崎果連

  貝塚の重なりを見てより吹雪         仲村初穂

  初鏡ふて寝の夫が映り込む         伊藤左知子

  寒星やぎっしりと齟齬の煌めき       川名つぎお

  去年今年レディミルルの毛繕い        早瀬恵子

  海荒れる能登は入りゆく寒土用        大井恒行


 次回第167回は、3月22日(土)、於・「ありすいきいきプラザ」(地下鉄広尾駅より歩8分)。雑詠3句持ち寄り。「豈」同人以外の方でも参加可です。



       撮影・芽夢野うのき「春近し父母もなし木の家も」↑

コメント

  1. 紹介ありがとうございます。久しぶりに開けたブログで偶然見つけました!

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