攝津幸彦「幾千代も散るは美し明日は三越」(「俳句界」2025年2月号)・・


 「俳句界」2025年2月号(文學の森)、特集は「俳句という芸術」。執筆陣は、復本一郎論考「芭蕉俳句の芸術性」、エッセイに筑紫磐井「俳句芸術説ふたつ」、上田日差子「芸術性は創造性」、依田善朗「作者こそ主人公」、千葉晧史「名句・秀句に思う」、恩田侑布子「かさね合う息」、池田瑠奈「五度ずらす」、岩田奎「ポップ」。それぞれ「芸術性を感じる俳句5句」を挙げているが、その5句選でもっとも面白かったのは岩田奎で、挙げられた句は、


  なみがしらなみだの楼をなしながら    小津夜景

  やさしいね涼しいね生きていたいね    神野紗希

  出歩いてハート撃ち抜かん業平忌    高山れおな

  太陽にぶん殴られてあつたけえ      北大路翼

  はろーわーるど白木蓮なるほど      中矢 温


また、岩田奎の論「ポップ」の結びには、


(前略)碑が除幕され、自治体の広報紙にうやうやしく載るばかりになることを俳句は注意付深く拒まなければならない。あるいはそのような最も公共的な手続の蓑を借りながら火薬を仕掛けることこそ、芸術のなかでリレーショナルアートとしての俳句がなしうる最も先進的な実践なのかもしれない。


 とあった。あるいはまた、筑紫磐井「俳句芸術説ふたつ」の結び近くには、


 (前略)虚子の〈去年今年貫く棒の如きもの〉、こんな俳句が伝統的だというのは噴飯ものだ。難解で、意味不明で、潜在意識の下で作られている。古いと思われていた「花鳥諷詠」を眺めると、その一部には、実は第四のアバンギャルドと言ってもよい面もあるのである。


 と言挙げしている。もう一つの特集は「人生の苦難と共に~俳句の力」。執筆陣は、小倉青蛙・伊藤伊那男・村上喜代子・小杉伸一路・園田欣也・佐藤成之・兼久ちわき。境涯を語って涙ぐましい。他に第15回「北斗賞/古田秀」の発表など、読みどころ満載。ともあれ、本誌より、いくつかの句を挙げておこう。


  風船を咥へて都市の苦さかな       古田 秀

  胎の子は夜行性らし雪起こし       玉眞千歳

  初鏡老いの力を眉に寄せ        伊藤伊那男

  雪達磨パンデミックのまだつづく    村田喜代子

  清明の天を鳥語の彩れり         古澤宏樹

  約束を交はすには息白すぎる      藤井あかり

  LOVEと背に描きたるデモの裸かな   黒岩徳将

  鷹匠のまず天網を指し示す        松本勇二

  元旦の綺羅をひとつに海と空       黛まどか

  納棺に余りし菊の無念かな        山﨑十生

  虎落笛明日は今日の俺でない      渡辺まさる

  今生のはるかに秋の蛍かな        武田伸一



★閑話休題・・杦森松一「何度目の黒ネクタイと年暮れる」(第37回「きすげ句会」)・・


 昨日は、第37回「きすげ句会」(於:府中市生涯学習センター)だった。兼題は「初」。以下に一人一句を挙げておこう。


  大地鷲掴み呵々大笑の冬楠木      山川桂子

  百年を走り続ける昭和かな       清水正之

  初夢は魔女見習ひや喜寿まぢか    久保田和代

  ありし日の兜太トークに初笑      寺地千穂

  呼吸器の妻や押し開(あ)く初明り   濱 筆治

  初富士や凧揚ぐ空の青深し       高野芳一

  埋もれても紅色消えぬ寒椿       杦森松一

  紅梅を主となして水ごはん       大井恒行


 次回は、2月20日(木)、兼題は「木」。



    撮影・鈴木純一「電線がとちゅうで切れてレーニン忌」↑

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