水原紫苑「ちちははの交はりを見し十歳のわれは極光放ちたりけむ」(『わたしの神聖なる女友だち』より)・・


   四方田犬彦著『わたしの神聖なる女友だち』(集英社新書)、その「おわりに」の中に、


(前略)取り上げた方々のなかには、「女友だち」などと呼ぶにはあまりにも畏れおおい方々もいらっしゃいます。またもう泉下の人となり、わたくしにとっては自分の魂のなかでしかお会いすることのできなくなってしまった方々も、少なからずいらっしいます。けれども、もろもろの些末なことはお忘れください。(中略)もう逢えなくなってしまった方々も、ここに収められた文章を書いている間はなんだかその方々が身近にいらっしゃるような気がして、もっぱらそのことの悦びのために書き続けてきたのですから。


 とある。ここでは、愚生もちょっぴりお会いしたことのいある水原紫苑の章を少し紹介しておきたい。


 水原紫苑(しおん)はいつもわたしを当惑させる。ハラハラさせる。大丈夫かなと、ついつい心配になってしまう。

 いきなり連絡が来る。

「今、30年ぶりにパリに来ちゃったのだけど、カルチェラタンに気に入った部屋があるので、買ってみようかなと思って。でも、みんなに反対されてるんですけど。」

「ええっ? どの辺?」(中略)

そうかと思うと、こんなことがあった。

現代詩の大御所がわたしにいきなり電話をかけてきた。怒り狂った声である。なんでも水原紫苑が年長の彼の忠告を聞かず、無礼なことをしてしまったらしい。ああ、またやっちゃったんだな、とわたしは思った。彼女はときどき、まったく無意識のうちに約束を反故(ほご)したり、直前になって重大事をキャンセルする常習犯だ。わたしもあるとき腹が立って、2年間ほど口をきかないということがあった。またこの病気が再発したのだ。(中略)

 アンソロジーの作成者としての水原紫苑は傑出していると思う。師であった春日井建のアンソロジーを編む水原紫苑は冴えわたっている。とりわけ彼の晩年の作品のどれを採り、どれを捨てるかといった手つきにおいて、感動を覚えた。

 春日井建についてはもう一つ、彼女は「銀河」という短編小説を書いている。


 ともあれ、引用された水原紫苑の短歌を以下に挙げておきたい。


 虎の母虎を生みたる地のしづか さくらの森が吸ひし夕焼け       紫苑

 殺してもしづかに堪ふる石たちの中へ中へと赤蜻蛉(あかあきつ) ゆけ

 

 その他の、愚生は、ほとんど存じ上げない「神聖なる女友だち」は、佐伯順子・宮田まり子・岡田史子・真穂ちゃん・若桑みどり・合田佐和子・如月小春・生田梨乃・四代徳田八十吉・李香蘭(山口淑子)・伊藤比呂美・重信房子・鷺沢萠・矢川澄子・岡田茉莉子・寮美千子・ヨンシル・石井睦美など25名。


 カバー裏には、「昭和の大女優。世界的な革命家、学者、漫画家、陶芸家、『痴人の愛』のナオミのモデル……。著者の記憶を綴る本書は、各領域で先駆者として生きた女性たちの貴重な記録である。」とあった。


四方田犬彦(よもた・いぬひこ) 1953年、兵庫県西宮市生まれ。



★閑話休題・・  てらもとゆきじ絵画展「見るまえに跳べ!」(於:喜多見プラザWA/1月23日~1月29日・水まで)・・  




 前掲書の合田佐和子つながりで、てらもとゆきじ絵画展「見る前に跳べ!」(於:喜多見プラザWA)/1月23日~29日(水)に知人に会うために出掛けた。案内のチラシには、


 日本ロックンロール振興会という活動団体を内田裕也、裕也さんが立ち上げます。その集いの場で、寺本幸司、寺さんにあいます。浅川マキのプロデューサーだと紹介されます。どうやら桑名正博のプロデュースを始めたので振興会を覗くことになったみたいだ。(中略)

最近、そんな寺さんから描かれた絵が送られてきます。抽象と具象が入り組んだ絵だった。絵を描くことを生業とする私に批評をねだってきた。(中略)自信があるらしい。「キーやん。究極のアマチュアリズムを書いてほしい。」という注文までがついた依頼だ。木村英輝く(画家)


 とあった。また、てらもとゆきじは、


 12年まえ闘病生活を生きていた合田佐和子に参加してもらって、下北沢「ぐ」で絵画展をやった。(中略)

75という峠をこえて50年近くも兄妹のように付きあった合田佐和子に勧められて絵を描くようになった。

絵と暮らすたのしみを知って、出来たらてらもとゆきじの描いた絵とくらしてほしいと12年まえにやった絵画展を、もういちど南正人のもと生家のプラザWAでやるこにした。

できたら、ぼくのカラダのそこから出現した絵画たちに会いに来てほしいです。


と記してあった。

 寺本幸司(てらもと・ゆきじ) 1938年、東京都生まれ。



      撮影・中西ひろ美「冬深しソウルメイトにガチ友に」↑

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