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村上たまみ「黙祷の壁に空蝉取り残す」(立川シルバー大学・令和6年度最終回)・・

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 7月2日(水)は、 令和6年度立川市シルバー大学最終回(於:曙福祉会館)、当季雑詠2句、本日で修了証書が手交される。愚生は、皆さんの、一年間の努力に報いるべく、愚生の句集『水月伝』(ふらんす堂)を差し上げた。ともあれ、以下に一人一句を挙げておこう。    半夏生赤銅色の父の腕               原 訓子    湯捏 (ご) ねしてピザ生地一重 (ひとえ) 柿若葉   中尾淑子    漕ぎためてからかかる坂道雲の峰          林 良子    ビー玉を添えて華やぐ水中花            河本和子    雨上りきらりちりりと江戸風鈴          堀江ひで子    蚊の奴め齢を吸うて命延ぶ             島田栄子    紫陽花のお辞儀したるや雨恋し          小川由美子    モクモクと入道雲に帰路急ぐ            中村宜由    朝ぼらけ月下美人の残り香よ           古明地昭雄    有珠山へ野の花愛でつ夏紀行           赤羽富久子    短夜や苫屋に狐の声もして            白鳥美智子    盆の棚シベリアといふ菓子買ひに          大西信子    祭の音インバウンドの賑やかし           柳橋一枝    紫陽花の紺のゆかたの清々し            手島博美    踊笠白きうなじににじむ汗            村上たまみ    藪に鳴く老鶯いづこ雨あがる            山下光子    喜びすぎず悲しみすぎず夏の花           大井恒行 ★閑話休題・・令和7年度9月3日(水)開講・シルバー大学受講生募集中・・ (1)応募資格 令和7年9月1日現在、立川市に住民登録がある60歳以上の方 (2)受講の条件  ⓵今までに修了したこともある講座は受講できません。  ②一人2講座まで受講できます。 (3)講座  9月から翌年7月までが開講期間です。 (4)費用    受講料は無料です。 (5)応募方法   往復はがきに下記の通りに記入して。立川市シルバー大学へお申し込み下さい。   令和7年7月10日(木)まで(当日消印有効)   ・立川市柴崎町5-11-26 柴崎福祉会館内       立川市シルバー大学事務局 行 (6)入学の決定   応募者全員に8...

善野烺「松虫といふ駅を過ぐ日の盛り」(『風の旅』)・・

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   善野烺句集『風の旅』(文芸社)、その帯には、 風情を感じる季語が/鏤められた句集と/在りし日を思う随筆記 十七文字で詠う自然の美と豊かな情緒  とある。また、著者「まえがき」に、   長年の教員生活をニ〇一六年に辞し、ある俳句結社に入会し、俳句に夢中になって十年余り。俳人協会会員になり、二〇二〇年には第一句集『聖五月』を「善野行 (・) の名で上梓しましたが、一昨年、所属結社を離れ、俳句同人「岬の会」創設を機に、俳号も古くからの知己には親しい「善野烺 (・) 」に戻しました。創作集の著書二冊も、四十年余りかかわっている文芸雑誌にも同名義で編集発行にあたっております。 (中略)  この本は、右に述べた意味では「善野烺」の初めての句集であり、また最後の句集になるかも知れません。己の拙い文学表現活動も人生とともに、そろそろ最終章。前の句集に載せた句で、とりわけ思い入れの強い句のいくつかをこの句集に再録した所以です。  とあった。跋は、和田桃「善野烺さんの『風の歌』について」。その中に、     教へ子に母の面影聖五月  年下の、まして「教へ子」に母の面影を見たという句意には告白めいたものがある。作者の心に中に芽生えた、恋にも似た情感。母を思慕する思いを、ふと目に留めた女性徒の姿に重ねてしまう教師。「聖」の文字は、汚れのない尊い思いであることを醸し出しているようである。映画のワンシーンを思わせる印象的な句。第一句集の表題にしたという「聖五月」である。  と、したためられている。そして、本集にはエッセイ「子午線物語」が収められている。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。      京都・野間宏の会    誂への花明りさへ京料理              烺    なにゆゑに痛む若さよ袋角 (ふくろづの)    名月を集めて母者は逝きにけり      足立卷一『やちまた』を読む    やちまたに迷ひつつ来し秋燈   黄落も果て鎮まれる御霊かな   大空に千の風あり死者の月            (死者の月…カトリックの追悼月)       特定秘密保護法可決(二〇一三年十二月六日)   知らしめぬ治者の底意ぞ冬に入る   震災の夜や凍てし手ににぎり飯       餘部   天空の駅や浦西風 (うらにし) 吹き曝し   万緑の子午線上に生まれけ...

北大路翼「サラダ記念日ほとんどがもやし」(『給食のをばさん』)・・

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    北大路翼『給食のをばさん』(角川書店)、帯の背には 「給食俳句日記」 とあり、表紙側の惹句には、  どんな生き方だっていいじゃんか。/俺が証明してやるよ。  SDGs、ジェンダー、少子化……  給食調理場へと変貌を遂げた人気俳人が全人類にお届けする全くあたらしい日記文学……誕生。  とあった。著者「あとがき ごちさうさまのかはりに」には、   時間があるけど金がない。給食の仕事を選んだもう一つの理由は勤務時間が短いことだ。給食を作つて、片付けが終はれば毎日十五時にはあがれるわけである。勤務地も家から近いし、空いた時間で句作に専念するつもりだつた。ところが、勤務時間が短といふことはその分給金も減るといふ当たり前のことをすつかり忘れていた。忘れたといふより気にしないふりをしてゐたといつた方が正直か。 (中略) 愚かな人間にこそ俳句は必要だ。給食俳句も思うたよりも愚痴つぽくなつてしまつたが、食を通して何らかの問題提起になつてゐれば幸ひだ。うまくいかないのは自分のせゐなのはわたつてゐるが、とにかくいまの夜の中は生きづらい。文学といふ大きなフライパンで必ず世の中ごとひつくり返してやる。プリキュアは絶対あきらめない。    とあった。いくつかの例句を抽き、以降は句のみになるが。愚生好みに挙げておきたい。    六月一日 麦御飯、お好み卵焼き、豚汁、野菜の辛子和え     卵を二十六キロ分割った。プーチンも卵を割るように人を殺して     ゐるのだらう。   ふと我に返る卵の殻掬ひ   七月十日 鶏牛蒡ピラフ、トマト卵スープ、ビーンズポテト     皿を洗つてゐるところをじつと見学してゐる生徒がゐた。少年よ、     目をそらすな。これが人生だ。   夏痩せの肩をエプロンずり落ちて   九月二十九日 芋御飯。メカジキの照焼き、南瓜団子汁、切干大根サラダ    南瓜をマッシュするまでは楽しかつたが、月を模した団子を作り    続けるのがしんどかつた。月は一つでいいよ。   明月をつくる身分となりにけり   二月十日 あんかけチャーハン、ビーフンスープ、パイナップルケーキ    バレンタインデー、チョコや他部署からの紅茶ケーキの差し入れなど    甘いものづくしだつた。僕はチャーハンを必死にもぐもぐ。   ハッピーバレンタイン検体提出日   海苔の香のつきし魚卵のよくこぼれ ...

鍵和田秞子「炎天こそすなはち永遠(とは)の草田男忌」(『戦後俳句作家研究』より)・・

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 戦後俳句作家研究会『戦後俳句作家研究』(風心社)。鈴木太郎「はじめに」に、 「戦後俳句作家研究会」を構成する幹事・会員はそれぞれ所属する俳句結社や年齢・性別が異なる。いわば超結社で評論を発表しながらお互いに批評し、勉強する会といえる。俳句作家としては吟行や句座を共にして優に、三十年を超える仲間でもある。研究会としての第一回の発表は、平成二十八年(二〇一六)年四月であった。 (中略)   戦後俳句のマンネリ化と師系の希薄化、また総合誌の発表作品の平均化、論争や評論の矮小化から、改めて師系の見直しを含めて何かをしようという機運が、ここに一つの集まりとなったのが大きいといえようか。  とあり、蟇目良雨の「あとがき」には、  (前略) 此の会の発足の経緯を少し補足する。俳人協会の中に超結社「塔の会」があるが毎月句会を重ね、その後の懇親会の席上で研究会を立ち上げようという機運が起こり、評論に関心の深い仲間を「塔の会」会員以外にも広く誘って「戦後俳句作家研究会」が出来たものである。  とあった。主要目次を上げると、稲田眸子「 倉田絋文を導いたもの」 、遠藤由樹子「 鍵和田秞子最終句集『火は禱り』再読」 、佐怒賀直美「 松本旭と隠岐 」、鈴木太郎「 森澄雄の『あはれ・無常について』ー『太平洋戦争』と『アキ子夫人の死』を中心にー 」、高井美智子「 細見綾子の底知れぬ実践力とその背景」、 中山世一「 波多野爽波研究ー俳句スポーツ説と爽波の写生ー 」、二ノ宮一雄「 飯田龍太ー侠--その世界 」蟇目良雨「 人間素十 出生の秘密から読み解くこと」 、松永律子「 女流俳人の作句法」 、水野晶子「 『気骨の人』西島麥南 」など。  ともあれ、本文中に引用された句のいくつかを挙げておこう。    我もまた草の芽俳句それでよし         倉田絋文    八十路には八十路の禱り初御空        鍵和田秞子    天つ日の片頬 (かたほ) に暑き遠流の地     松本 旭    ひとり身はひとりをたのみ秋深む        森 澄雄    ふだん着でふだんの桃の花           細見綾子    金魚玉とり落しなば舗道の花         波多野爽波   またもとのおのれにもどり夕焼中        飯田龍太    書初めのうゐのおくやまけふこえて       高野素十    ...

関口比良男「黒生れ たちまち白が包囲する」(「俳句」7月号より)・・

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  「俳句」7月号(角川文化振興財団)、連載・角谷昌子「俳句の水脈・血脈--平成・令和に逝った人々」第49回は「関口比良男」。その「比良男の生い立ち」に、   比良男は、明治四十一年(一九〇八)十二月十五日、東京世田谷に生まれる。父横田清兵衛(日進銀行頭取)、母関口ゑい。本名貞雄。戸籍上では、父の弟横田喜兵衛の庶子。父の死後、十一歳で戸籍通りに嘉兵衛の家に預けられる。だが、二年後に伯父の家になつかないという理由で、生母の養子として縁組され、母は理髪業で比良男を養うという複雑な家庭環境だった。  十九歳で小学校の代用教員として勤務し、〈朝露を踏み麦の穂の影を踏み〉と詠む。翌年、國學院大學高等師範部に入学、金田一京介、折口信夫に教えられた。  とあり、 「山﨑十生氏(『紫』主宰)に聞く」の「『紫』主宰継承の思い」では、   平成六年(一九九四)の「紫」八月号に師は「私に万一のありました場合、紫の題号および経営の形態や方針につきましても、十死生君にすべて一任する考えでおります」と書かれた。私は、師の召天の日には、意志を継ぐ覚悟をしており、翌年、主宰を継承した。  師は常々、「俳句芸術派」を標榜していたので、私もその精神を引き継いでいるちもりである。 (中略)  このように語る山﨑氏の代表作に〈もう誰もいない地球に望の月〉(句集『伝統俳句入門』)がある。人類が滅亡したあと、〈望の月〉が巨視的に地球を眺め、照らしている。山﨑氏は、美しくも怖ろしい景を描出して、地球上の戦争や環境破壊に警鐘を鳴らし、俳句芸術の象徴性の迫力を見事に示している。  とあった。ともあれ、本誌本号より、いくつかの句をあげておきたい。    九十九里あるというのに蟹走る          関口比良男    夏来たる子らよ馬には乗つてみよ          西村和子    俳諧の国に青黴生え放題             岩淵喜代子    帚木の枝の岐れの杳として             山口昭男    鶴帰る吊るしておかむ魄の紐           鳥居真里子    昭和の日昭和を知らぬ子の未来          稲畑廣太郎    通草咲く夕べは侏儒の饒舌に           佐怒賀直美    出たからは酒も辞さずよ春の昼           三村純也    銭湯へ会津桐下駄蚊食鳥        ...

渡辺智恵「太陽のような妹ソーダ水」(秩父で俳句を作ろう「俳句イン秩父」より)・・

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 本日、6月28日は“ 秩父で俳句を作ろう“「俳句イン秩父」(主催/秩父むらさきの会・彩の国俳句を作る会)(於:秩父宮記念市民会館)だった。愚生の大いなる失敗は、大会日程を見たとたん、その中に「特別ゲストスピーチ『今、俳句について思うこと』/大井恒行氏」という式次第を見たときだ(会場に着いて、選者控室で、出されたお弁当を開きながら、何気なく、そのパンフをみた・・・)。全く失念していたのだ。山﨑十生氏と車中でも語らい、選者としての講評は承知していたのだが・・・。思わず声が出た。十生氏に、「最近の、俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進運動のことでも」、と水を向けていただいて、とにかく、その現状を語ることにしたのだった(30分ほど)。加えて、帰り際に、恐縮ながら、愚生の第80回現代俳句協会賞受賞のお祝いの品までいただいた(ありがとうございました!!)。  当日句の席題は「近」で一句。ともあれ、以下に、事前応募句を10位までと、席題句のいくつか(愚生の選んだ句)を挙げておきたい。    太陽のような妹ソーダ水           渡辺智恵    宇宙より星を貰ひしてんと虫         馬場菊子    二年後は閉校となる桜かな          眞下杏子    一切をのみこんでゐる朧かな         斎藤久子    万緑や両神山といふ気骨           福島時実    泣き虫は夜行性です月朧           藤澤晴美    本心を隠したままの曼殊沙華        小山とし子    花は葉に手書きの地図が大雑把        久下晴美    陽炎の中は殺気が消えてゐる        渡辺まさる    雨上がるしずくを編むや蜘蛛の糸      長谷川清美  当日、兼題「近」の愚生の選んだ句、と愚生の挨拶句を以下に、    近ちゃんはずっと親友遠花火         宮崎小雪    目近には武甲の吐息七変化          藤澤晴美    森涼し遠近両用眼鏡拭く           浅野 都    唐突に近づいて来るはたた神         久下晴美    隕石接近ながむしぐるぐる          金子和美    豆の飯遠くて近き母の家           角 達朗    梅雨明け近し花婿はモヒカンで       池田めだか    球場近き歓声田水湧く     ...

齋木和俊「キジムナーに語り部託す沖縄忌」(第186回「吾亦紅句会」)・・

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  本日、6月27日(金)は、第186回「吾亦紅句会」(於:立川市高松学習館)だった。兼題は「雨蛙」。去る6月9日に逝去された牟田英子さんのために、黙祷を捧げた後、句会が始まった。そして、亡くなる直前に自身で選句された句集『虹を渡る』(私家版)が句会の仲間に配られた。牟田英子への追悼の句も多くみられた。以下に一人一句を挙げておきたい。    牛蛙笑み涼やかな山ガール         田村明通    つながれた命が歌う沖縄忌         奥村和子    雨蛙上眼使いに世を図る          齋木和俊    君逝くや百名山の星月夜          須崎武尚    桜桃忌電気ブランの夜は更けて       村上さら     紫陽花や歪む昭和の硝子窓        折原ミチ子    濃紫陽花女性専用車混雑          渡邉弘子    陽を風を浴びて葡萄の葉の繁る       笠井節子    梅雨晴れや此処を先途と鳥の声       松谷栄喜    朝靄に菩薩を見んと蓮池に        吉村自然坊     明日はさどの色になる雨蛙         関根幸子    コココ米ココココ米は庭の鶏 (とり)   三枝美枝子    そよと風ことば失う白牡丹         西村文子    登下校秘密の場所に雨蛙          佐藤幸子    小雨降る枝葉で遊ぶ雨蛙         佐々木賢二    雨蛙明日は晴れぞどこへ行く        武田道代    餓鬼の子のペンキ逃れよ雨蛙        大井恒行  次回は、7月25日(金)、場所は立川女性総合センターアイム。兼題は海開き、牟田英子追悼句一句。 ★閑話休題・・牟田英子「やんばるも摩文仁の丘もさみだるる」(『虹を渡る』より)・・ 牟田英子遺句集『虹を渡る』(牟田親子舎)、挟み込まれた「ご報告」には、  皆さま この度残念ながら一足先に旅立ちました   山友達と300名山に、海外の山に/自然豊かな日本の山に   バトミントンの仲間との愉快なお付き合い/俳句仲間との句作、   近くのお友達など/沢山の友達に恵まれ幸せな人生でした    優しい二人の娘、姉妹に感謝    皆さま ありがとうございました                        牟田英子/令和7年6月9日没                ...