夏石番矢「枝々の傷口から春を呼ぶ声」(『見えない王冠 Invisible Crown』)・・


  夏石番矢句集『見えない王冠 Invisible Crown』(Cyberwit .net)、序文はDr.カルネッシュ・クマール・アグラワル(編集主幹 /Cyberwit .net)、以下、日本語部分のみになるがを記しておこう。


 世界が沈黙の緑に傾くとき、そこに冠がある。それは黄金でも栄光でもなく、俳句のための「不在」の冠である。「見えない冠」は何も重さを持たないが、すべての重みを担っている。悲しみが記憶へと変わること、喪失と憧憬、崩れ去り静かに再び築かれる世界の残響を含んで。

 夏石番矢の俳句は単に観察するのではない。それは現実に対峙する。切迫し、生々しく、ときに渾沌としているが、唯一の明晰さに根ざしている。このページを貫く「見えない冠」は、象徴であり、証人でる。それは人間の精神が不在に耐えうることを思い出させ、沈黙そのもが重みを持ち、静止の瞬間が一生分の感情を含みうることを示す。(中略)

 またこの本は、俳句が単なる紙の上の言葉ではなく、実践であり、反映であり、自然と共に生きることなのだと思い出させる。

 結びに、私はこう言いたい。夏石番矢は世界全体に向けて一つの教訓を示している。それは平和、統合、そして人類を結びつける静かな力の教訓である。


 とあった。集名に因む句は、

   

  大都市封鎖みんなの頭上に見えない王冠

  Big cities in lockdown

  the invisible crown

         on everyone's head


  見えない王冠あらゆるものを空位とす

  The invisible crown

         makes everything

         vacant

 

 などであろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、以下に、いくつかの句を挙げておこう(日本語のみ、英訳略)。


  氷の私が氷の鬼を追い回す         番矢

  月面への一歩と月面からの一歩

  汚れれた優先席から墓場までの近道

  塔人間を作っているのも塔人間

  見える戦争見えない戦争炎天下

  間違える故に我あり芋焼酎

  靴裏で泥と枯草しばし休憩

  王冠にも槍にもなるウイルスわれらとともに

  紅薔薇開くばかり戦争続くばかり

  黒い女が無限に生み出す天の川

  泥の駅から泥の電車に乗り込む毎朝

  天使は星印悪魔は無印

  スーパーブルームーンわれらの底なしの愚かさ


 夏石番矢(なついし・ばんや)1955年、兵庫県相生市生まれ。



   撮影・芽夢野うのき「ひんやりとこの世を灯せ薔薇真ッ赤」↑

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