久保純夫「識閾の王となりたる梟よ」(『識閾』)・・


 久保純夫第16句集『識閾』(小さ子社)、)その「あとがき」に、


 内緒の話を。当初、この句集は『五貌集』と名づけて刊行するつもりであった。構成はこの『識閾』と変わりはない。つまりもうひとつの対象に五通りの相貌・俳句を書くという方法である。ところが、俳句作品を整理していく段階で、「え、これは以前やったことがあるよなぁ」と。だいたい僕は俳句でも句集でも書き上げたらすぐ忘れてしまう。その以前の仕事はフォーシーズンず++』では三句、『定点観測ー櫻まみれ』は全句が櫻関連。(中略)しかし考えてみたら「二番煎じ」もなかなか味わいが深いののではないか、と。いま挙げた句集は四季を中心にして纏めているのだが、少しだけ工夫をしてみた。その結果として、新興俳句の連作形態を進化させることになっている。(中略)

 識閾。手許の辞書には次の如く説明されている。「心理学で、刺激によって感覚や反応が起きる境界。無意識から意識へ、また、意識から無意識へち移るさかい目をいう語」。

 この句集で分類した季語とされている言葉もその範疇に入る。さらに今ひとつ、主に抽象語を中心とした項目も加えてみた。それが「識閾」とした部分である。そして僕の十六番目の句集名となった。


 とある。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  それぞれの黄泉に向かえり花筏        純夫

  種浸し穏やかに熱くるみけり

  なめくじに懐いていたる輪廻かな

  世界じゅう検閲國家夕焼ける

  千匹に少し足らぬぞ蚯蚓鳴く

  識閾の起点となりぬ木守柿

  天の川あらゆる弦が響きけり

  次の世の息漏れてくる石榴かな

  有縁には乗らんとしたる芋の露

  詔勅を突き刺している根深かな

  白鳥の中でもあなた短気です


 久保純夫(くぼ・すみお) 1949年、大阪生まれ。



  撮影・芽夢野うのき「死んで生きる手もあらなんと、あら、椿」↑

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