藺草慶子「寒卵ひところがりに戦争へ」(自註現代俳句シリーズ『藺草慶子集』)・・
自註現代俳句シリーズ:13期37『藺草慶子集』(俳人協会)、著者「あとがき」に、
昭和五十七年四月、山口青邨先生ご指導の学生句会に初めて出席してから、もう四十数年たってしまったことに驚く。
私の句集五冊のうち、編年体は第二句集だけである。そのため、制作年を調べるのに結社誌、総合誌、句会報などにあたった。それでもはっきり断定できない句もあり、また、一句一句というよりその句を作った頃のことを記述した部分もあるがご容赦願いたい。
とあった。自註の二、三例を紹介する(句のルビは省略)。
海暮れてゆく手の中の夏蜜柑 昭和五七年作
一人旅にて。木の椅子会にはまもなく東大俳句会の大屋達治、日原傳、岸本尚毅、梶智紀らが、やがて上田日差子、仙田洋子、皆吉司らが加わった。
洗ひ髪すぐに乾きて爆心地 平成五年作
句集未収録句。管弦祭のあと市内に戻り、原爆ドーム、流灯を見学。同時作に〈折れど折れど足らぬ折鶴原爆忌〉。
敗戦日なほ海底に艦と祖父 平成二六年作
昭和十九年六月一日、マリアナ諸島で祖父小川衛戦没、享年三十四。長女の母はその時十歳。九十一歳になった今でも父親のことを語っては涙ぐむ。
ともあれ、以下に、句のみになるがいくつかの句を挙げておきたい。
外されし閂太き花の冷え
あかあかと柩の底に冬林檎
ぶらんこの影を失ふ高さまで
雛飾る箱の中より箱を出し
一つ火や闇のしかかりのしかかり
百年は死者にみじかし柿の花
月光に明日逢うための服を吊る
迷宮をころがる毬や春のくれ
蓮の実のとぶや極楽飽きやすく
吾もまた誰かの夢か草氷柱
夕永し忌ごころを鳥とんでみせ
いづこへもいのちつらなる冬泉
どこにでも行けるさびしさ白日傘
なきがらの目尻の涙明易し
藺草慶子(いぐさ・けいこ) 1959年、東京都生まれ。
撮影・中西ひろ美「クリスマス間近な昼の休みかな」↑

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