西池冬扇「冬銀河この身の浮いて行くところ」(『自註現代俳句シリーズ 西池冬扇集』より)・・
自註現代俳句シリーズ・13期35『西池冬扇集』(俳人協会)、挨拶文には「前回の第五句集『彼此』までの約50年間の句の中から300句を選んで註を付したものです」とあり、著者「あとがき」には、
この句集は私の第一句集『阿羅漢』(昭和六十一年・一九八六年)から第五句集『彼此』までの句集に載せた句から選んだ。個人的興味の枠内にとどまっているのではないかと冷や汗が出る。
とあった。本書の例、を二、三挙げておこう(ルビは省略した部分もある)。
心太咽喉(のど)をするりとわが戦後 昭和五九年作
心太で戦後のバラックの市場を思い出すのは私だけだろうか。そこで「ぼうや、心太は箸一本で食うのが粋」と誰かに教えられた。
線路越えひばりの国に入りにけり 平成一二年作
童話で異界へ入るには洋服箪笥の中だったり、穴に転がりこんだり、竹藪の中だったりするが、線路をヨイショと跨ぐのも方法。
梟は星の松明見て鳴けり 令和二年作
山奥の句友を尋ねた。梟の巣があり、星を見て鳴くという。ルーマニアの古謡に「星の松明」という言葉があるのを思い出した。
ともあれ、愚生好みに偏するが、以下に句のみを挙げておきたい。
天道虫太陽に入る眩暈(めまい)かな 冬扇
猫バスの通る夜中の大ひまはり
ダムの上(え)のとんぼの上(うえ)のとんびかな
山積みの土管の穴に雲の峰
空海の海空海の春の空
ディバッグの背広が四人虚子忌なり
春遠しやはりキリンの首長く
ぶつかつて蟬はジジイといつたきり
ひまはりや重たきものは人の首
冬銀河頭蓋を抜けるニュートリノ
梟の鳴く夜は耳も冷えてゐる
何事も無くて菜の花茶漬けにしよ
石叩きそこここあそこそこあそこ
餡蜜の豆をこぼしぬ夢道の忌
青き雨雨より青き雨蛙
視てしまふ蠅虎(はえとりぐも)の跳んだ顔
柚子の実の空に浮いてることもある
僕はあの八月六日姉の背に
いくさ好(ず)きのあなたもどうぞ盆休み
西池冬扇(にしいけ・とうせん) 1944年、大阪生まれ、)東京育ち。
撮影・中西ひろ美「日向ぼこしても警戒おこたらず」↑

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