大木孝子「死ぬまではあたらしきわれ冬菫」(『二度童女』)・・


  大木孝子第5句集『二度童女』(槐書房)、栞文は正木ゆう子「海と砂浜の間に」、その中に、


(前略)そんなときに大木孝子さんから『二度童女』の校正刷りが届いた。

 他ならぬ孝子さんの久々の句集ゆえ、軽い気持で開く勇気はなかったが、後書だけは気持を抑えきれずにそっと覗く。するとぐうぜん「向日葵」「傷兵」文字がある。

 このようなシンクロ二シティに私は影響され易い。斯くして『二度童女』は、読む前から、《スカボロー・フェア》の不思議な世界とレイヤーを重ねることになった。

 後書によると、彼女は浅間高原で出会った大いなる五本の向日葵から、この句集についてのインスピレーションを得たという。轟然と首を垂れた五本の向日葵は、野をゆく傷兵のようであり、復活への祈りのようでもあったと。

 インスピレーションとは、一頁を五句で構成することである。独立した一句一句を五句寄り添わせ、共鳴させて、一頁ごとに新たな世界を創り出し、タイトルを付ける。


とあり、著者「あとがき」には、


 作品は年代順ではなく、想いに沸騰沈殿するままに、おのずから寄り添うかたちで構成した。(中略)一句一句、離れた空間で詠み上げたものが寄り添い、ザラザラと詩魂を零し、さあ醸成し合うのか、反撥そへたり合うのか……。


 とあった集名にちなむ句は、


  紅羅より松羅(しょうら)が好きよ二度童女(おぼこ)   孝子


   であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  あたらしき死者うすらひの吐息せり

  高きへ登れかなしみが旗を振る

  白昼とろん椿ねむりと申すべし

  豊満のらんてうねろりうらがへる

  日晩のひとふし眠り流しとも

  春の森きらつと鉈のあてみ痕

  藻には藻の別れありけり水の秋

  樺火焚くけむりやはやはなにぬねの

  日がな風吹く寂蒔(さびまき)村の蕎麦の花

  ろんろんと落つ無患子の実の放下

  羽毛降るなり化野は氷(ひ)の匂

  月浜の白魚(しらを)火ほふらほふららら

  ながらみを流ら身と書きさびしめり


 大木孝子(おおき・たかこ) 1945年、茨城県生まれ。



★閑話休題・・三上泉個展「雨の澱ー2025-」12月9日(火)~24日(日)・12時~最終日15時まで(於:Gallery 美の舎)・・




 左より、酒巻英一郎・表健太郎・三上泉・泉氏のご夫君・九堂夜想↑


 Gallery 美の舎・・台東区谷中1-3-3 カサセレナ101 03-5834-2048 
 地下鉄千代田線 根津駅1番出口より歩3分

 本日(14日)最終日なれど、間に合う方はお出かけ下さい。ガラス工芸?の手法は、パート・ド・ヴェールという技法で、紀元前16世紀頃にメソポタミアで開発された、古代のコア・テクニック(芯型にガラスを巻きつけ成形する技法)らしい。

 酒巻・表・九堂各氏らは、谷根千の古本屋巡りをして、三上個展会場で、愚生と落ち合ったのだ。

  三上泉(みかみ・いずみ) 1963年、新潟県生まれ。



         撮影・鈴木純一「掘りまくる

                 働きまくる

                 雪しまく」 ↑

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