加賀翔「何も写らない暗さにして撮る」(『鼻を食べる時間』)・・


  加賀翔・白武ときお句集『鼻を食べる時間』(太田出版)、加賀翔の「まえがき」に、


 僕が自由律俳句と出会ったのは17才の時でした。世に発する必要のない独り言のような、孤独や切なさに溢れているのに他人事のような視点で自分や状況を見つめていて、その不思議な感覚に笑ってしまう。あらゆる状況をまるごと包み込んで面白がっているような世界が自分にとってはとても衝撃で魅力的でした。(中略)

 芸人になり、自由律俳句を好きな人にたくさん出会えたことが本当にありがたく、特に白武さんと仲良くなったことは大きな出来事でした。(中略)

 この本は詩歌や俳句に触れてみようと思った人が一冊目に買う本では無いのだろうと思います。そんな一冊が狭い本棚に並び、この文章が今あなたの目に触れているということがとても幸せです。この本をきっかけにエロ自由律俳句という言葉を共有できる関係になれることを楽しみにしています。


 とあり、また、白武ときおの「あとがき」には、


 (前略)決まりがないところがいいのに、エロというもので縛って詠む。エロ自由律俳句は遊び半分の洒落で始めたつもりだった。粛々と続けているとその輪が次第に広がっていき、加賀君のおかげで東直子さんや穂村弘さんまで、ゲストに参加していただいた。

 エロ自由律俳句を作っているときは、エロいことを掘り起こし、エロさに磨きがかかり、仕事も生活も手につかなくなってしまうところが難点でさる。(中略)エロ自由律俳句は、すべての人がすでにこころに持っているエロい真実を、自由律俳句の力をかりて具体的な言葉として表出させるためにエロい日本人がたどり着いた文芸です。


 とあった。 本書には、加賀翔(かが屋)によるモノクロ写真もふんだんに配されていて、それも面白い。ともあれ、本書中より、いくつかの句を挙げておこう。


  別れて少し残った方言         加賀 翔

  帰れるくらいの雨で目が合う       〃

  映画につられてとがる唇         〃

  おんぶ交代して甘噛み          〃

  くすぐり合って動物の目になる      

  触れても触れても伝えられない触れたさ  

  腕枕ぴったりで帰れない         〃

  手の大きさを比べたら絡まっていった   〃

  

  耳に流れる涙の跡を唇で消す     白武ときお

  仕切りにしては薄すぎる         〃

  地図が読めずに張り付くうなじ      〃

  デッキチェアで寝姿勢を探っている    〃

  譜面のコピーを風から守る        〃

  冷凍餃子で冷やすあざ          〃

  一本でもピンク色だとわかる髪      〃  

  同じ風呂上りでも違う匂い


  置いてったパジャマ嗅いでちょっと泣く   ジャングルぐるぐる

  乱れたポニーテールですするカップラーメン     納税ランチ

  生身で突撃するとあざができそうなのれんだ      檜原洋平

  なんで途中までしか観ていないのか思い出した     蓮見 翔

  訊かれたらとりあえず〈まだだめ〉と応える     ベテランち

  ものまねが偉人のフリして腰を振る          ぐんぴぃ

  結露に書いた文字のしたたり             東 直子

  着ぐるみを剥かれる                 穂村 弘


 加賀 翔(かが・しょう) 1993年、岡山県生まれ。お笑いコンビ・かが屋。

 白武ときお(しらたけ・ときお) 1990年、京都府生まれ。放送作家。



       撮影・中西ひろ美「遠くから見ても兄弟新入生」↑

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