宮坂静生「はらわたの熱きを恃み鳥渡る」(『俳句鑑賞・1200句を楽しむ』)・・

  


 宮坂静生編著『俳句観賞 1200句を楽しむ』(平凡社)、その「はじめに」に、


 俳句の面白さは、謎解きにある。五・七・五音の十七音による最短の定型詩を読んで楽しいのは、意味がわかり、同時に映像があざやかに浮かぶからだけではない。作者が読者にさりげなく仕掛けた謎が理解され、謎を解くスリルを味わうことにある。謎は一瞬の驚きから、よく考えて納得する謎までさまざまである。ときには、これはなにか、と謎掛けを話題にしたり、中には謎がないことを不思議がったりする。そのような俳句の謎解きの楽しみを本書でじっくり味わっていただきたい。


 とある。愚生の句も一句鑑賞されいる。これまで、この句を取り上げて鑑賞してくれた方はおられないので、図々しく、恥を顧みず、引用し挙げさせていただく。

                   

 紫陽花や闇の白さをあつめたる    大井恒行『大井恒行句集』

 夜目の紫陽花(あじさい)を捉えたものか。連想しやすいが、作者には〈ねむれねば悪戯(わるさ)を思う日傘かな〉という句がある。

 日傘を思うだけで誘惑したい衝動にかられるという。句には悪戯の仕掛けがあることを宣言したような作だ。

 カラフルな紫陽花は闇の花。それも白い闇なので、おおかたは気が付かない。が、あの七変化にどんな罠(わな)が仕掛けてあるのか。傍らを通るにも喰いつかれないようご用心を。◇紫陽花 


 名鑑賞というべきだろう。 本書には、このように1200句にそれぞれ200字ほどの鑑賞が施されている。他に、二十四節気一覧やエッセイ「都のことばと鄙のことば――季語と地貌をめぐる九つの話」、また「俳句を楽しむための書籍案内」、さらに作品と人名索引、季語・事項索引などが併載されている。気楽に、面白く、まさに充実の一書である。 

 ともあれ、以下に、集中より、句作品のみになるがアトランダムに、いくつかを挙げておきたい。


  霾晦(よなぐもり)冨士を攻めいるペンキ絵師   須藤 徹  

  鏡には映らぬ家霊風光る             秦 夕美

  海に出てしばらく浮かぶ春の川          大屋達治

  無心する老婆もありて護憲の日          井口時男

  水羊羹そちら向かぬはNO!ってこと        池田澄子

  年とつて白玉に黙つてゐるしかない        筑紫磐井

  梅雨茫々口中暗く潮鳴りす           岸本マチ子

  秋の草弓なりの時ばかりかな          恩田侑布子

  青き踏みひとりのダンス影のダンス        鳴戸奈菜

  ふと触れる肘ひんやりと原爆忌         なつはづき  

  地球の日(アース・デイ)珊瑚思ひのほか重し   小林貴子

  菓子箱をひらく四月の雪が降る         鳥居真里子

  袋蜘蛛ロシアの名前むつかしく          森賀まり

  曳航というかたちして八月は           坪内稔典

  荒野にて白露(はくろ)三々九度零(こぼ)   魚住陽子

  ものを書く腕は岬秋澄みぬ            國清辰也

  草市のはづれをことに風濃かり          鈴木節子

  首を出す蓑虫に原爆忌の鐘            鈴木鷹夫


 宮坂静生(みやさか・しずお) 1937年、長野県松本市生まれ。



★閑話休題‥第48回「現代俳句講座」林桂「俳句形式のデザイン」/川名大「『白泉句集』のなりたち」・・


              林 桂(けい) ↑
               川名 大(はじめ)↑

 昨日、7月9日(日)は、第48回「現代俳句講座」(於:ゆいの森あらかわ「ゆいの森ホール)だった。林桂「俳句のデザイン」は、奇しくも、前日の7月8日が蟬翁忌、髙柳重信没後40年目の命日であり、存命であれば100歳であるという。「俳句の多行形式」という視点で、戦前の多行表記の俳句、荻原井泉水の二行形式、吉岡禅寺洞などの多行形式、また、ルビを付す俳句の由来、あるいは、俳句とは何かについて(発句の独立があるならば)、三橋敏雄の平句独立論にふれるなど、俳句の現在の見通しについて、納得の論を展開されていた。川名大は、じつに綿密に、残されている稿本『白泉句集』が三冊あり、そのそれぞれの相違、異同について述べられた。林桂、川名大には、講演の終りに、前日夜に訃報があり、7日(金)に澤好摩の急逝があったことを伝えた。



       芽夢野うのき「枇杷の実のその色ふたつ盗みけり」↑

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