内村恭子「狐火が種火かどうも寒すぎる」(『多神』)・・


 内村恭子第二句集『多神(たしん)』(東京四季出版)、跋は、福永法弘「満点の回答」。それには、


 内村恭子さんの第二句集『多神』は、第一句集『女神(ヴィーナス)』からおよそ十年を経ての珠玉の作品集である。第一句集の序文で有馬朗人先生は「恭子さんの句には軽妙さ、明るさ、ウイットが溢れて」おり、「その裏側には豊かな詩情と審美眼が働いている」と称え、「対象を見る力を一層深め、第二句集への新しい一歩を踏み出」して欲しいとの大いなる期待で結んだ。(中略)

   万歩忌の冬のポケット膨らませ

 「万歩忌」との名付けは、晴雨寒暑を問わず一日一万歩がノルマだった先生へのリスペクトであり、背広やズボンのポケットに何でも押し込んでおられた在りし日のお姿の活写である。(中略)

  夏木立これが森有正のパリ

  野を急ぐ夜露に鳥籠を濡らし

 吟味された素材とリズム。そして、それらが生み出す独自の美的世界。まさしくこれが、先生の期待に対する満点の回答である。


とあり、また、著者「あとがき」には、


(前略)この十年間は、俳句の師、有馬朗人先生が逝去、父、義父、母を亡くした、そんな時間でもありました。

 随分前に、ルーヴェン・カトリック大学のヴァンデワラ先生と有馬先生の対談に立ち会ったことがあります。そこで、ビッグバンの前に何があったと思うか、という問いにヴァンデワラ先生は「神」、有馬先生は「無」「エネルギー」と答えられました。私にはどちらも正解と思えます。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、いくつかの句を挙げておきたい。


  神々は山に遊べり春の雷       恭子

  まづ鳥の影を映して水温む

  灼くる地の国境点線ににて真直ぐ

  十三夜別の神ゐる国照らし

  臨時休業シェフはけふ兎狩

  つちふるや砂曼荼羅に水の色

  舟は人乗せ花筏誰を乗する

  絵日記に嘘のはじまる夏半ば

  鰍釣つげ義春に会ひさうな

     有馬朗人先生逝去

  師へ手向くならば真つ赤な冬紅葉

  カリアティド憂ひ顔なる秋夕焼

  汗ぬぐひ寄席もクラウドファンドの世

  野を愛すなり盆花は野より

  まだ奥のあると言はるる花野かな

  

  内村恭子(うちむら・きょうこ)1965年、東京生まれ。



      撮影・鈴木純一「言うて見て聞いて触れ嗅ぐラケット忌」↑

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