田中信克「消えてゆく村は白膠木の花 盛り」(「海原」No.73)・・・  

 

 「海原」No.73(海原発行所)、第7回海原金子兜太賞の発表号である。本賞は田中信克「消えてゆく」。奨励賞に小松敦「現像」、鳥山由貴子「迷蝶図鑑」。 選考委員は武田伸一、田中亜美、遠山郁好、堀之内長一、宮崎斗士、柳生正名。応募作品38編。その武田伸一の選後感想に、


 (前略)応募総数は五十編前後あってほしいと思っている。ではその手立てはあるのか?私はあると思っている。

 そにの一つは、老けるにはまだ早い「海原」の平均年齢の前後に相当する八十歳前後のベテラン同人たちが、奮って応募することである。手本はある。鱸久子さんを見よ。百歳近い年齢にて応募を欠かさず、奨励賞受賞の実績を有しているのだ。次は、油の乗っている中堅同人の諸氏。今やらずして何時やるのか。更には、「海原集」に投句しているものの、投句歴が浅く同人になれず悶々としている若手の諸君よ、同人と同じ土俵の上で競えるチャンスに賭けてみないか。(中略)

 いざいざ「海原」同人・会友諸君よ。


 と,九十歳の武田伸一が檄を飛ばしている。ともあれ、本誌本号より、いくつかの句を挙げておこう。


  短夜の過ぎゆく余生寝(い)ねがたき      安西 篤

  盆に死す子や隠れんぼ鬼のまま         武田伸一

  燕帰る燕見ぬ日々われにあり         堀之内長一  

  箱庭の亡父小さくても頑張る          宮崎斗士

  生と死と結緒(ゆいを)かそけし蟇交む     若森京子

  天花粉夜(よ)な夜(よ)な夜を消し忘れ    山中葛子

  shine cosine tangent 蛇逃げる      マブソン青眼   

  コントラバス傾ぐや星の墜ちゆけり      水野真由美

  くちなはの足音ほどにして添ひ寝        柳生正名

  リボン金色さかしまに薔薇を吊り        山本 掌

  辺野古埋め立てジュゴンの帰る海がない    夜基津吐虫

  あとだしの子に先づ氷菓選ばせる        若林卓宣

  スイッチオフ小暑猛暑のカキクケコ       石川青狼

  口元の楽しげ母の長き昼寝         こしのゆみこ  

  骨のなき白き骨壺鳥渡る            白石司子

  舌の根の動きはじめる帆立貝          十河宣洋

  AIかるく喋るよ黒い雨の夏           髙木一惠

  音数少ない音楽が好き鳥曇           芹沢愛子

  この土も焦土なりしか からあゐ        田中亜美

  終らない炎昼天安門広場           月野ぽぽな

  自転車を引く真夏日の白き影          中内亮玄

  古里や活断層実る茄子             赤崎冬生

  祝卒寿天のサソリは若き兄           伊藤 眠

  マッチングアプリ選挙への誘蛾灯       石橋いろり

  ワンルームマンション甘藷持て余す       片岡秀樹

  背泳ぎで北へ向かっているところ        河西志帆

  転向の文学死語に晩夏光            武藤 幹

  弁護士の額の上のサングラス        山本まさゆき

  共存の虚ろがとける花氷            市川正直

  ラムネ瓶集めて発明クラブかな         小野裕三

  義勇兵義眼に映す梅雨の月           大西健司

  いのちみじかしこのかなかなを聴きとおす    田中信克

  光るもの咥えて夏の果てに越す         小松 敦

  車輛基地真っ逆さまに白鳥座         鳥山由貴子



★閑話休題・・YO-EN 唄会「黄昏に恋して㉓」(於:国立・ギャラリービブリオ)・・


             
          チラシに、YO-ENの一句あり「秋の日よ しぶみまろんや ルイボスティー」。

 11月2日(日)16時~、国立・ギャラリービブリオの「YO-EN唄会 ㉓」に出掛けた。ギャラリービブリオの店主にの前ぶりに、新曲、試みありで挑戦のステージとあり、一に八木重吉の詩にメロデイを付けたオリジナル楽曲、二に大伯皇女(おおくのひめみこ)を歌い、「こきりこ節」のYO-ENバージョンを披露した。詩人・生野毅に会え、昨日、写真家・橋本照嵩も来て、愚生によろしく伝えてと言っていたらしい。ライブの次回は来春かも・・・。


    撮影・芽夢野うのき「さびしさも痛みも慢性して紅葉」↑

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