井上白文地「征く人の母は埋れぬ日の丸に」(『還って来なかった兵たちの絶唱』より)・・

 

 栗林浩『還って来なかった兵たちの絶唱/ー戦後八十年ー』(角川書店)、著者「あとがき」に、


 戦後八十年を迎える令和七年(二〇二五)年、私には、俳句を通じて何かを次世代に伝えられないかとの思いが募っていた。現下の平和の蔭には、あの忌まわしい戦争があった。犠牲になられた方々の悲しみがあった。彼らの思いの強さは、短い俳句では語り得なかったに違いない。しかし、万感を籠めた短い表現形式だからこそ、そのまま今にまで残されてきた俳句の強みがある。その短いメッセージから、色々のことを読み取らねばならない。本書はそのための架け橋になれれば幸いである。


 とあった。目次を参考に挙げておくと、「第一部 還って来なかった兵たちの絶唱」「第二部 ある戦犯兵卒の生涯―-山本北溟子―-心の平和の俳人」「第三部 『戦後八十年、昭和百年』に思うことーーみちのくの帰還は俳人」「第四部 厭戦者を虐めた男―-小野蕪子」。

 最近の朝日新聞(11月23日)の岸本尚毅「俳句時評」には、「帰還せざる兵士に句」と題して評されていた。

        
    岸本尚毅「俳句時評/帰還せざる兵士の句」(朝日新聞・10月)↑

 ともあれ、本書より、いくつかの句を抽いいておきたい。


  之でよし百万年の仮寝かな          大西瀧治郎

  教へ子よ散れ山桜此の如くに          関 行男

  靖国で会う嬉しさや今朝の空       古野繁実 中尉

         昭和十六年十二月八日 ハワイ軍港にて ニ四歳

  母思ふ月はマストの右左         佐藤榮一 少尉

         昭和十七年五月三十一日 猫瀬戸にて訓練中

  大君のみ為に死ねと言ひし母強し     山田勇 少尉

           昭和二十年四月八日 沖縄周辺洋上 ニ三歳                                                                                                                                           

  散る花の心を問うな春の風        千葉三郎

        昭和二十年五月二十七日 回天 沖縄海域 一九歳

  露けしや特攻戦記にわが名前        小出秋光

  銀漢も泣けわが部下の骨拾ふ      平松小いとゞ

  秋白く足切断とわらへりき        長谷川素逝

  追撃兵向日葵の影越えたふれ       鈴木六林男

  桃史死ぬ勿れ俳句は出来ずともよし     日野草城

  コスモスに透(す)く陽(ひ)は遠き嶺の上 山本北溟子 

  恥ぢぬ身ぞ吾子高らかに豆を撒け      長谷川宇一

  月光とあり死ぬならばシベリアで       佐藤鬼房

  天山の月に哨兵たりし日も          小原啄葉



★閑話休題・・加藤由美「北斎の描く富士やま百変化(ひゃくへんげ)」(「立川市シルバー大学俳句講座」③)・・


 11月5日(水)は、立川市シルバー大学第3回「俳句講座」(於:立川市曙福祉会館)だった。今回の課題は「無季俳句を作る」だった。中には、宿題だった「季語入れないで俳句を作る」の課題を忘れた人もいた(愛嬌・・)。参考資料として、「無季俳句セレクション30」(「俳句界」2011年10月号)のコピーと次回の「ひらかな俳句」(阿部完市・上田玄・まつもと和也・山福康政」(「俳句空間」1988年、第7号「実験・俳句文体バラエティ」)のコピーを配った。ともあれ、以下に一人一句を挙げておこう。


  水はねるへこんだわだちずぶぬれだ     平田國子

  競い合うかけ声盛ん老テニス       荒井美智子

  鈴鳴らし早足で行く上高地         永澤直子

  腰曲げて次年の実り待つ老母        加藤由美

  子に逢えてテンション上りどじばかり    服部清子

  そよ風を楽しみ友と野をめぐる       村井悌子

  人の世は笑顔あふれてまるくなる     樺島美知子

  コスモスの畑は枯れてコキア映え      澁谷眞弓

  三百六十五日ひとつの夢にとらわれる    大井恒行


 次回、12月3日(水)の宿題は、「平仮名だけで俳句作る」です。


      撮影・中西ひろ美「秋の日の残り少なや多摩の寺」↑

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