杉美春「なめらかな鱗生えそう夜のプール」(「つぐみ」NO.225 より)・・


 「つぐみ」No,225 2025.10月号(編集発行 つはこ江津)、「俳句交流」は杉美春。「豈」同人の方の幾人か居られる。以下にいくつかの句を挙げておこう。


  海遠く運搬船と夾竹桃            八田堀京

  ひと呼吸ことばは遅れ稲の花         渡辺テル

  するすると連なつて来る遠い夏       わたなべ柊 

  スピード狂母の愛した杜鵑草         有田莉多

  神無月月極の男募集中            井上広美

  夏草や礎石は爆心点仰ぐ           入江 優

  月映(つくはえ)へ絵画館出(い)で昏(くら)みたり

                       打田峨者ん

  露草を摘み取る前に抱きしめて     おおさわほてる

  マイトンボひらひら舞ってゆめうつつ     金成彰子

  満ち潮にあまた水母の息遣い          楽 樹

  たれに告げむ くちなわみごもる 月の沼    伍 宇

  工場の屋根に錆ある残暑かな         高橋透水

  海ともいえぬ水とぷんとぷん秋がくる    つはこ江津

  魚屋が無(の)うなったあの太刀魚よあの蛸よ 天空海士  

  自由って溺れるまでの立泳ぎ        夏目るんり

  干梅を一つ摘まんで「じゃーまたね」     西野洋司

  刈田風崖っぷちからもどりくる      ののいさむ

  天高し次の電車は二時間後         蓮沼明子

  鳰が鳰に寄り添うヘクソカズラかな     平田 薫


 ★閑話休題・・杉美春「波濤また波濤の先を帰燕かな」(『櫂の音』)・・
  

 上記、「つぐみ」No,225/「俳句交流」の杉美春第一句集『櫂の音』(ふらんす堂)。序は有馬朗人、それには、


(前略)美春さんは大学でフランス文学を専攻した。また卒業後も翻訳に従事したことのある才媛である。そのような才能がある上に絵画鑑賞にも興味を持っている。『櫂の音』の中にオキーフとかダリなど多くの画家が登場するのはその結果である。例えばオキーフについて

  オキーフの花崩れゆく遅日かな

  オキーフの絵の骨白き冬日和

  オキーフの砂漠に降りる霜の花

と詠っている。オキーフ(一八八七~一九八六)はアメリカの女性画家である。(中略)日本ではあまり知られていないが、幾度かサンタフェで夏やクリスマスを過ごした私にとっても親しみ深い画家である。


 とあり、著者「あとがき」には、


 『櫂の音』は、二〇〇八年から二〇一七年までの三〇六句を収めた私の第一句集です。

 私が俳句を始めたのは、友人の紹介で天為座間句会に顔を出したことがきっかけです。入会して数年後、親族の不幸が続き、俳句を一時中断しました。再入会後、「天為」の湘南句会、東京例会に参加するようになり、毎月有馬朗人先生のご指導を受けるようになりました。

 朗人先生の公平で穏やかなお人柄、俳人としての姿勢、幅広い教養と知識から多くのことを学ばせていただきました。


 とあった。集名に因む句は、

  

  読初のヴェネチア史より櫂の音       美春


 であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  白南風や東方見聞録に血痕           

  亡き人へ声届くまで登高す

    悼

  夏燕疵なき空へ飛び立てり

  終焉の色はむらさき牡丹焚く

  野火走るプロメテウスの手を離れ

  えごの花はらはら零る野辺送り

  黒揚羽一頭影を裏返す

  蜉蝣の玻璃の歪みに囚はるる

  耳袋星と交信する夜は

  霜晴や一輪残る花時計

  産土を継ぎ白鳥守を継ぐ


 杉美春(すぎ・みはる) 1956年、東京生まれ。



         
撮影・中西ひろ美「二個ずつの心遣いも宵の秋」↑

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