芳野ヒロユキ「ぷろぽーずするかさせるかかれすすき」(『運命のズッキーニ』)・・


  芳野ヒロユキ第2句集『運命のズッキーニ』(象の森書房)、跋は坪内稔典「極みへ、あるいは辺境へ」、それには、


 芳野ヒロユキにはすでに代表句ともいうべき句がある。この句集の巻末に出ている次の句だ。

  ちゃんちゃんこアルゼンチンチン共和国

  カタバミは山崎自転車屋のおやじ

 句集『ペンギンと桜』におさめられているが、前句はリズムがとっても楽しく、意味などはどうでもよい。というか、読んだときの音感を楽しめばよいのである。ボクは炬燵のまわりをこの句を唱えて走り回っている幼児を連想するが、80歳の老爺が唱えて「おっ、俺の自画像がも」とニヤリとしていてもよい。(中略)

 俳句の575の表現は究極的にはリズムとイメージである。と、最近のボクは思っている。自作を例にすれば、リズムの句は「春の風ルンルンけんけんあんぽんたん」、イメージの句は、「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」だろう。右の2句、ヒロユキの句と同じように意味はどうでもよくてリズムとイメージでできている。


 とあり、著者「あとがき」には、


(前略)コンセプトは「あなたのそばに」である。本書は本棚に入ることを想定していない。バッグに入れて通学や通勤時間に読んでもらうだけではなく、リビング、食卓、キッチン、トイレ、毎日の暮らしの様々な場面でほんの十秒でいいからこの句集を開いてほしい。毎日の季節の巡りの中でページを捲ってほしい、そういう意図である。


 とあった。集名に因む句は、


  次回、運命のズッキーニ。お楽しみに。     ヒロユキ


 であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。


  吉祥天至るところにつくしんぼ

  ウナギになるんだウナギになるんだウ

  ボラードに座るクラゲを考える

  ゴンドワナからの約束青銀杏

  柿ふたつたっぷりな人生でした 

  お正月全人類がチンアナゴ

  初雪が降るアルペジオアルペジオ

  トマト鍋みんながみんなリコピンピン

  なまはげの直前で泣きじゃくる

  

 芳野ヒロユキ(よしの・ひろゆき) 1964年、静岡県磐田市生まれ。



★閑話休題‥和田信行「鎮守府の祭り囃子に逸(はや)る子ら」(「立川こぶし句会」)・・


 10月10日(金)は立川こぶし句会(於:立川市女性総合センター アイム)だった。以下に一人一句を挙げておこう。 


  早々と賑はふフリマ秋うらら          山蔭典子

  そぞろ寒登校の子ら弾け行く          尾上 哲

  じゃがバタを粋に頬張る浴衣女(びと)     和田信行

  胸さわぐ渦巻く魂星月夜            髙橋桂子

  秋寒し不満だきこむヘイトかな         井澤勝代

  山門をくぐるや萩の風の中           三橋米子

  一斉に黄花コスモス泳ぐ丘           大澤千里

  霊園の香煙はこぶ秋の風            伊藤康次

  辛うじて繋がる同期降り月           川村恵子

  無花果や奇跡かなしく隠れける         大井恒行



        撮影・鈴木純一「約束の地と血と乳と蜂蜜と」↑

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