吉行和子「語ること多く残して寒椿」(『奥の細道迷い道』より)・・
『吉行和子・冨士眞奈美 おんなふたり 奥の細道迷い道』(集英社)、本書はお二人の対談で進む奥の細道談義になる。
ふたりの俳号の由来と趣味の世界
冨士 あなた、最初に作った俳句を披露なさいよ。
吉行 いいわよ。《インドでは瞑想ガラ空を飛ぶ 窓烏》。それでも季語がないって言われたから「インドには季節がないんです!」って(笑)。
冨士 俳号「窓烏」の由来は?
吉行 それはね、岸田今日子さんとインドに行ったんですよ。あの人は俳号が「眠女(みんじょ)」言うんですね。で、眠女さん、ほんとにいつになったら起きてくるかわからないので、早く起きて喫茶店で珈琲飲んでて、何もやることないから窓から外を見てたら、カラスがじ~っとしてるんですよ。インドの人はみんな瞑想して、そのうち体がふわ~っと浮くんだって聞いてたから、カラスも瞑想してるのかな、あまりにもじ~っとしてるのが長いから。そのうちす~と飛んでいったから「ああ、カラスも瞑想して飛んでいくんだな」って、ふと思ったの。その時のこと思い出して「俳号を何か考えろ」って言われたと時に、窓から見たカラス……ってことで「窓烏」と付けたんです。で、一句詠んだのよね。(中略)
吉行 あなたは三十前から始めてたのよね。
冨士 そうね。二十代半ばから。私の俳号「衾去(きんきょ)」は古いのよ。三十前になって、ああ、三十になったら「お褥(しとね)さがり」だなって付けただけなの。大奥の時代には、三十歳過ぎるとこう呼ばれたそうで、その頃の俳句が《肩に触るる指やはらく青き踏む 衾去》だった。
吉行 その句が中村汀女さんに褒められたの?
冨士 うん。何か三句くらい作ったの。
ともあれ、本書より、いくつかの句を挙げておこう。
白足袋の指のかたちに汚れけり 眞奈美(衾去)
一茶忌やまぢめになっちゃおしめえよ
若菜摘む棲み果つるまでわが地球
桜餅泣くな和ちゃんおれがゐる
母を拭きし盥(たらい)の水を打ちにけり
凍蝶の固まって木に家族かな 和子(窓烏)
黒い雨また降らす気か案山子哭
ややこしき作法のありて新茶のむ(台湾)
福寿草四人姉妹の目が笑う
八月やわが家幽霊ばかりなり
吉行和子(よしゆき・かずこ) 1935年8月9日~2025年9月2日、享年90.東京生まれ。
冨士眞奈美(ふじ・まなみ) 1938年、静岡県生まれ。
★閑話休題・・林ひとみ「錆びゆく海へたたまれてゆく白虹」(第72回「ことごと句会」)・・
9月20日(土)は、第72回「ことごと句会」(於:ルノアール新宿区役所横店)であった。兼題は「南」+3句。以下に一人一句を挙げておこう。
秋澄むや明朝体の似合う人 村上直樹
力みな使いきるまで法師蟬 杉本青三郎
映るもの余さず映し湖澄めり 石原友夫
鬼灯を金髪に挿す浅草寺 武藤 幹
十六夜の遅刻咎める者はなし 江良純雄
手動式窓の車や秋桜 宮澤順子
語り部のデイゴを抱いて口ずさむ 杦森松一
羅針盤くるり南にいわし雲 渡邉樹音
それはそうと真夏の夜のホウレン草 金田一剛
無花果の思ひ出せない針の夢 林ひとみ
何故に痛む夏の肩程々に骨 照井三余
涼風や南京玉に透ける碧 渡辺信子
いろいろの花飾りをり宿の月 春風亭昇吉
子羊の吹かるる明日(あした)みなみかぜ 大井恒行
次回は、10月18日(土)予定。
撮影・中西ひろ美「歩みつつカクンとなれば秋の段」↑
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