津久井紀代「鉦叩百叩いても父還らず」(現代俳句文庫『津久井紀代句集』より)・・
『現代俳句文庫Ⅱー2 津久井紀代句集』(ふらんす堂)、解説は岸本尚毅「写生と諧謔ー津久井紀代句集『てのひら』を詠む」、対馬康子「津久井紀代句集『神のいたずら』鑑賞ー沈黙の俳人ー」。津久井紀代のエッセイ「一徹な貌―-『雑草園』から発信された青邨文学」、「本当の声―ー加藤楸邨を読み解く」、古館曹人を語る―ー一徹を貫いた男」を収録。
著者「あとがき」には、
二十代に入院中に主治医から一冊の「夏草」誌と歳時記をいただいた。それがきっかけで山口青邨先生の「夏草」に入会。初めて堀の内で行われれていた「夏草」の例会に出席した。帰りに黒田杏子からお茶に誘われた。そこで古舘曹人、有馬朗人、斎藤荷風、染谷秀雄、鳥羽とおるなどそうそうたるメンバーとご一緒した。有馬朗人先生は世田谷の実家近くで、以後いつこご一緒させていただいた。そのころ猛勉強したことが今に役立っている。
とあった。本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
水取りや生きてをはりの火を仰ぐ 紀代
露草やくらくて深き能登の土間
働いて耳とほき父労働祭
山口青邨死す
屍やならべて冷ゆる椅子の数
蛇こはし人間こはし詩がこはし
春終る図鑑の中に蝶閉ぢ込め
レンブラントの光の中に二月来る
裸木となつて裸木よく見ゆる
三伏のをはりのころの手足かな
春の水地球に出口なかりけり
象もまた母国を恋へり冬銀河
修司の忌即ち澤田和弥の忌
フラミンゴ夜は晩秋の色となる
越前の和紙のくれなゐ初手毬
ジャコメッティの足キリストの足飛蝗の足
津久井紀代(つくい・きよ)1943年、岡山生まれ。
撮影・芽夢野うのき「つまづきついでに覗いてあ、蛍袋」↑
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