山本敏倖「骨格は蛇の匂いのなるしすと」(『無限白書』)・・
山本敏倖第4句集『無限白書』(現代俳句協会)、帯文は高野ムツオ。それには、
山本敏倖は俳句の荒海へ一人漕ぎ出したアドベンチャーである。信ずるは独自の詩想が描いた海図と言葉の舵輪を操る熟達の手腕のみ。季語を駆使しながら事象の神秘を探り、現代を鋭く批評する、実にスリリングな俳句世界がここに展開されている。
とあり、扉には、「日頃の感謝をこめて/妻 佳子(けいこ)に捧げる」と献辞が添えられている。また、著者「あとがき」には、
(前略)句集名『無限白書』には、、俳句という短詩形の無限の可能性を信じ、それに関わった記録という意味に過ぎない。しかしこうして第四句集として形にし、上梓できたことは素直に喜びたい。
満七十歳直前に上梓した第三句集『断片以前』と同様に、平成二十七年から年代順に並べた。章名は、その都度書き留めたノートにつけた題名である。深い意味はない。
作句姿勢に関しては、前作のあとがきにもあるように、心象風景を伴う写生の奥行き、多義性を含む言葉の転位による次のイメージを造型する。別質の新、真、深の探求を常に念頭に置いて作句している。また音韻に関しても、破調を気にせず、当初からの考え方である音数の問題ではなく、一つのまとまり、ゲシュタルトとしての五七五、定型感によるものであることに変わりはない。
俳句の無限の可能性を信じ、ここまでの葛藤の証として、本書『無限白書』を上梓するものである。
とあった。ともあれ、本書より、愚生好みに偏するが、くつかの句を挙げておこう。
空白へオウンゴールの狂い咲き 敏倖
ニッポンを日本にする除夜の鐘
ふらみんごたまゆらキュービズムである
じゃこめってぃのしかじかしかじかの弁
ぷらすちっくこめでぃーぽいさくらんぼ
海の日の海にふつうの空がある
おしゃべりの表面張力風光る
水中花もう後悔は置いてきた
八月十五日鏡は拭いてある
手のひらをはるかと思う昼寝覚
ほうたるほたるとてもきみょうなこだいもじ
陽炎に手足を付ける振付師
混沌を正面に置く穴惑い
人類のノイズのような初日かな
夏草の物言う前に刈られけり
陽炎を輪郭にする国家かな
存在と無と戦争とさくらかな
山本敏倖(やまもと・びんこう) 1946年。東京都荒川区生まれ。
★閑話休題・・角谷昌子「落雷の捥ぎし大枝アウシュビッツ」(「平和祈念文芸講演会・平和と俳句ー沈黙を拒む俳句」より)・・
先日、8月9日(土)は、「調布市文化会館たづくり」で開催された「令和7年度 平和祈念文芸講演会・角谷昌子『平和と俳句―沈黙を拒む俳句』」を聴きに行った。俳句の歴史、それも戦争関連の俳句の歴史的なありよう、あるいは、阪神淡路、東日本大震災、また、ウクライナ侵略における句など、丁寧にに分かりやすく説明されいた。立川吾亦紅句会、府中きすげ句会の仲間も来ていた。董振華にもお会いした。
撮影・中西ひろ美「ガンバっているなと思う夏の朝」↑
コメント
コメントを投稿