片山由美子「蝶を呼ぶ現世になき花として」(『水柿』)・・・
片山由美子第7句集『水柿』(ふらんす堂)、「あとがき」には、
本句集には、二〇一九年一月から二〇二四年二月までに発表した作品の中から三八九句を収めました。(中略)
先生からは多くのことを学びましたが、最も大切なのは俳句の格調ということだと思っています。(中略)
私にとって俳句は、声高にものをいうためのものではありません。社会に向かって何かを主張するというものでもありません。平凡な日々の営みの中で、小さな発見や驚きをことばにするささやかな営みに喜びを見出してきました。(中略)
しばらく前から、若冲の絵に俳句的なものを感じており、「俳句」(KADOKAWA)の巻頭五〇句の依頼があったときに、若冲の絵をヒントにまとめられないかと思いました。思いついたのは、頭の中で若冲の絵を3D化し、その世界に入り込んで俳句を作るということです。したがって、素材はすべて若冲の絵の中にあり、若冲が見たものということになります。(中略)
「水柿」は色の名前です。その色の魅力もさることながら、ことば自体に惹かれて句集名にしました。美しいものはもちろん、人の喜びや悲しみに心を寄せつつ丁寧に生きることで、自分なりに納得のいく句を作り続けられたらと思います。
とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
胸もとにあばれる萩を括りたる 由美子
紅葉して楓(ふう)はいよいよ風呼ぶ木
木も草も夢を見むとて枯れゆくか
みほとけの金わかたれて福寿草
九十四歳の母へ
この世まだ見るもの多し花明り
ひぐらしや錆ゆくものが家中に
含みたる海ほほづきに血のにほひ
ニュージーランドにて大石悦子さんの訃報を受く
片虹や人の訃胸に旅半ば
鏡花忌の雨音に覚めまた眠り
秋の初風貝殻の白じろと
白象の歩めば軋む夏の闇
秋風を聴く流眄の白孔雀
飛べぬ翅ひろげて蝶の湧きいづる
鰯雲いづこからともなく毀れ
ひらきたるひと齣を閉ぢ秋扇
片山由美子(かたやま・ゆみこ) 1952(昭和27)年、千葉県生まれ。
撮影・中西ひろ美「海の日やスポットライトは弾かれて」↑
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