望月哲士「向日葵の太陽黒きウクライナ」(『望』)・・・


 望月哲士句集『望』(私家版)、その「はじめに」に、


 入社した四月すぐに無理矢理句会に誘われて始めた俳句を退社f後は趣味として続けることになりました。今ではボケの進行を多少なりとも遅らせてもらえているのは俳句のお蔭と有難く思っています。(中略)

 なかなか思うような俳句は出来ないのですが、残された時間を考えますとそろそろ区切りをつけなければならないと思い、とりあえず遊び心で100句まとめてみました。 

 俳句は自ら注釈しますと余情を消すばかりでなく、作品の世界を縮めるという弊がありますが、この句集を手にして戴ける半分の方は俳句と無縁の方ですので、敢えて簡単な自注を付させて戴いております。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


    □齢を感じるこのごろ

  おぼろ月減る反骨の骨密度           哲士

    □何となくぼんやりとしていた昼下がり

  日時計のあいまいな刻鳥帰る

    □一途な努力はきっと・・・

  地道という地図にない道梅ひらく

    □傷心の少年に

  躓き少年つつむ春夕焼

    □改めて首の長さにビックリ

  時折はキリンが食べる春の雲

    □甘い話には・・・

  緑陰や罠かもしれぬ椅子ひとつ

    □ただでさえ暑いのに

  炎昼や一心不乱に間違える

    □少年の頃は宝と思っていたものも

  抽斗の虹のかけらは何時消えし

    □母は庭中をコスモスにしていた

  コスモスの国に分け入り身に浮力

    □こちらから海鼠に訊きたい

  海鼠から訊かれて困る死生観

    □まだ生きて年を越せる安堵感

  天鬼暮に我が名未だなし晦日蕎麦

    □しんしんと降る雪に皆それぞれの思いが

  皆別のものを見てをり雪の奥


 望月哲士(本名 望月謙一) 1938年11月生まれ。 



   撮影・中西ひろ美「なにもせずなにも願わず暑さかな」↑

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